堤:はい。早めに動くことで、例えばコールセンターに優秀な方を配置していただいているので、対応がとてもスムーズです。フォズベリーさんの営業を受けたときも、市役所の若手がつないでくれたんですが、桑原(裕)部長と岡田(陽平)さんの提案を受けて、「あ、この方たちは対応力がある」と思ったんですね。
―― お会いしたらすぐ?
堤:はい。でも、逆に言うとこの会社のスピード感に我々もついていけなければ逃げられてしまう。同じスピード感で仕事ができれば、ウインウインになる。今、決断しないとダメだ、と。自治体契約って放っておくと実績があるかどうかを見ちゃうんですけど、それでやったら間に合わないと思って。はっきり言えば先方の心意気に応えるためにはどうするかを考えた。
―― この辺は堤さんの『公務員 ホンネの仕事術』に出てきた話にも絡みますね。そうか、今まで実績がない事業者さんと契約するのって、やっぱりお役所はあんまりしないものなんですね。
堤:しないですよ、普通。そういうことに踏み込む担当者がいればしますけど、でも放っておくとそもそも入札制度は、ここでいえば東京都広域で事業者登録をしてなければいけません。次にプロポーザルなどでも前の実績を見ています。それはリスクを取りたくないからですね。
―― それは、まあ、分かりますよね。
堤:ただ、今回の件は初の経験なので、実績よりアビリティーを。
―― というか、どこも「新型コロナワクチン集団接種会場運営」の実績なんてないわけですもんね。
堤:実績があったとしても、頭からは信じられないので。自分自身も同じです。福祉行政に携わった経験も実績もありませんから。この業務に入ったばっかりのときは「シリンジって何だろう」と思っていました。
―― 分かります(笑)。
堤:そもそも、経営の課長(企画財政部行政経営担当課長)である僕が、福祉保健部に乗り込んでいたりするわけで、普通はありえないですよ。
―― あ、そういうものですか?
公益と共益を考えると、実績にもつながる
堤:いやいや、コロナ禍で経済面に打撃を受けて、市の税収は落ち込み、経済出動で財政が厳しくなっている。その中で財政の健全化を担う課長をワクチン接種の現場に投入するなんて、他の自治体の方が見たら「えっ、何で堤が行っているの」ということになると思います。ただ、それが小金井市の戦略なのだと思っています。
―― 戦略。
堤:自分でも(兼務を)聞いたときに「僕ですか?」と思いました。でも市長からすると「財政再建はまずここからだ」ということなんです。
新型コロナ対策、その切り札のワクチン接種で市民の健康・生命を守り、これが結局はお店の再開や人の活動とかにもつながってくる。経済の面の正常化とか、アフターコロナにもつながる、ということなんですね。別の言い方をすると、経営の課長としての僕も、確かに新型コロナの沈静化がいつどこでどうなるかが分からないままでは、行財政対策の打つべき手も見極められないです。無論、自分の能力不足もありますが。
―― いや、分からないですね、確かに。
堤:ワクチンが絶対の答えなのかはまだ分かりません。ただ、今、持てるカードの最強のものであるのは間違いないんですよ。ましてや経済であれば心理面からも「安心」が大事です。という意味ではここ(ワクチン接種)に全エネルギーを、ということには理屈があるわけです。
フォズベリーさんも利益・経営をお考えですし、三澤先生だって事業としての診療所の経営を考えていらっしゃると思います。けれど、それに加えて、やはり公益を考えてくださっていて、それが自分たちの業界を含めた共益になって、それが自分の実績にもなるという。順序としてこうお考えだと思うんです。
―― ものすごく余計な話ですが、堤さんって、庁内で浮いたりとかしないんですか。
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