:今(2021年6月)、接種会場になっている「保健センター」は、3月まで「発熱外来PCR検査センター」だったんです。本来この近くだと保健所圏域で、あ、小金井市には保健所がないんです。

―― だそうですね(小金井市ほか全6市は府中市の「多摩府中保健所」の管轄エリアとなる)。

:議論はあったようですが、市の施設を自腹も切って用意し、そこで地域の先生方の連携で発熱外来をやると決めました。その運営を通して、お互いの話がかみ合うようになり、何よりも顔が見えるようになっていった。これが大きいんですね。

―― 顔が見える、というのは、もうちょっとかみ砕くとどういうことなんでしょう。

:医師会の方は、「行政はこういうことはできる、こういうことは苦手なんだ」というのを結構分かってくださっている。行政の判断では難しいところは「じゃあこれは医師会の判断でしましょう」と言ってくださったりするし、我々もその逆を提案できるようになった。それが「かみ合っている」というお互いの認識につながっているんだと思います。

―― うーん、ちょっと分かりにくいです……。

ルールに縛られている間、ワクチンは冷凍庫で眠ってる……

:例えば、医療関係者分のワクチンと高齢者分とのやりくりです。我々行政としては、厚生労働省のガイドラインが見えていますので、「医療関係者分は医療関係者分、高齢者分は高齢者分(にしか接種してはいけない)」、もっと言うと、医療関係者分は都道府県管轄なので市は関係ないんです。ということで、相互に融通したりしないわけですね、放っておけば。

―― 医療関係者分が余っていれば高齢者に使う、ということはできないってことですよね。例えば、医療関係者分として配られたものが、高齢者分が足りない状況なのにディープフリーザーで眠っているかもしれない。

:両方を一緒に考えるという、発想自体がないのです。ルール上は。

 でも、僕らは保健所がない自治体としては珍しく、市内のどの医療機関にワクチンが何箱届いたか、どれぐらい接種なさっているかを知っていますので、打つべき医療従事者に最大限打った上で、やりくりがつけば高齢者に打っていただくということを、現場医師会としての責任の下で進めていただいているんですね。

―― なるほど。

:ルール上は行政として「融通してやってください」とは言えない、ないしはとても言いにくいんですよ。この件はその後、こうした現実を受けて、厚生労働省からも「柔軟な使い方をして構わない」という通知が出たんですけど、最初は別扱いでした。こういう柔軟なやりくりが、小金井市の今の接種率につながっているんです。

―― 現場としては、「こうして融通したほうがいいよね」という共通認識があって、でも行政からは「融通しましょう」とは言いにくい。「では、原則を守りながら医師会のほうでやりましょう」と医師会の側が言ってくれる。そういうことですね。

:はい。ルールは重要ですが、お互いのルール「だけ」に縛られていたら、こういう対応はできないです。

―― 前向きなオーバーラップですね。

:フォズベリーさんとのお付き合いもそうです。先ほど「全てのピースが揃っていない状態」でパズルを始める、という例えを使わせていただきましたが(前回参照)、接種会場で何が必要なのか、全部が見えていない中で、例えば「これこれをやる」と契約を結ぶわけですよね。その中で新しく対応が必要な話が出てきたとしても、契約上はフォズベリーさんは何もしなくていいわけです。

―― 何もしないと、会場がスムーズに回らなくなるかもしれない。一方で、後出しでどんどん負荷が増えるのでは、フォズベリー側もビジネスとしてやっていられませんよね。

:はい。なので、どうすれば負荷を不必要に増やさずに、接種数を維持・向上させられるかをお互いに考えるわけです。例えば、個人情報の関係もあるので、キャンセル待ちのリストは僕らが作ってお渡しできます、とか、パソコンの納入が間に合わないから我々でやろう、とかをやりとりしているわけです。お互いがしゃくし定規に「決めたことしかやらない」姿勢でいると、結局、両方ともミニマムの能力で業務を回すことになります。

―― 残念ながら会社員としては、そのミニマム化したくなる気持ちもすごく分かります。

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