―― 供給スケジュールが二転三転するわ、V-SYS(ワクチン接種円滑化システム)にVRS(ワクチン接種記録システム)にとリポートラインは複雑にもつれるわ、マニュアルはスカスカ……ってこともないんでしょうが、現場で補わないといけない部分が出てくるわで、確かに、自治体の方にとっては「これってどうすりゃいいの?」ですよね。Twitterなどでも悲痛な声がたくさん上がっていましたが、なるほど、今まではちゃんと抜け漏れが少ない指示が来ていたのが、今回は現場でなんとかしないといけなくなったからだったのか。
堤:それが僕の個人的な理解なのですけれど、そう思うのは、ワクチン関連を兼務するまでの僕の、いわば本職は「企画財政部行政経営担当課長」だからかもしれません。
―― ああ、そのお立場だと「中央の指示に従う」だけでは無理そうですね。
感染症対策のノウハウが地元に残り、「次」に生きる
堤:もう一つの背景として、これもあくまで僕の理解ということになりますが、厚生労働省が当初提示したモデルは、分かりやすく言うと、「市がどーんと集団接種会場をつくって、さらにいくつかの大病院が会場となって、スタッフを送り込んで、数カ所で一気に接種をする」という方式だったんだと思います。
―― なるほど。これに対して東京・練馬区が、かかりつけ医などの診療所での接種を並行する「練馬モデル」を打ち出したんですよね。小金井市医師会の三澤(多真子)先生は、練馬区に背中を押されて「やっぱり地域連携でいこう」と動き出したとおっしゃっていました(「ワクチン接種、全力で攻めてこそ医者も市民も救われる」)。
堤:三澤先生もおっしゃっていたと思いますが、そこにも背景があるんです。要は小金井には、集団接種会場を置ける大病院などの会場がほとんどない。初めから制約があったんですね。だから、医師会の皆様との連携がどうしても必要でした。
あともう一つ考えていたことがあって、「この問題は今後も続くだろう」と。
―― なるほど。変異ウイルスへの対応を含めて、今後こうした感染症対策が継続して必要なのは明らかですね。
堤:はい、今回の接種でも、例えば数は少なくても副反応への不安は消えないと思います。そういう問題に対応する力を地域が持つには、(ワクチンを)地域で打つしかないんです。
―― でも、大きな会場がどん、とできて、外部スタッフが送り込まれて接種する形だと……。
堤:打つのは早いです。だけど、打ったスタッフは接種が終わればいなくなるので、結局、地元には何もノウハウやスキルのある人材が残らないんですね。
―― それはそうですね。
堤:最初に申し上げました通り、集団接種会場に使える施設がほとんど無かった小金井市は、地域医療機関での接種を中心に据える戦略しか採りようが無かったんですが、「でもそれが小金井の強みである」というふうに生かせるのではないかというのを、追求してきたつもりです。
そうはいっても、2月19日に(新型コロナウイルス感染症対策担当を)兼務することになったときには、さまざまな疑問が自分の中にも、組織の内部にもあったんです。「医療機関との連携」といっても、どうなるか分からないという不安も含めて。
―― 「措置」ではなくて外部との連携ですもんね。なるほど、介護と似ているという意味が分かってきました。
堤:はい。市役所とは発想が違う方々と一緒にやるわけです。
―― そういう仕事のマニュアルもないし、経験者もいない。
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