:介護保険制度は2000年に導入されましたが、それまでは自治体が行政権限に基づいて、税金を財源として福祉サービスを選択して、利用者に提供していました。「措置制度」だったわけです。介護保険制度の導入によって、利用者が自由にサービスを選択し、契約を結ぶ形になったわけです。

―― 「措置」って、行政の権限で物事を決める、いわゆる「行政処分」と同意ですよね。介護は、お役所が上から目線で利用者に業者さんを割り振る形から、ユーザーと民間企業との間に立って、制度を運営して財政も見る形になった。

:当時の発想を逆転させてつくった新制度なので、担当者はすごく苦労したと聞いています。だけど、介護の1期生とか呼ばれるこの世代は、実力を付けてどんどん活躍しているんです。

―― 堤さんもですか?

:いや、僕は全然違います。言いたかったのは、「従来の発想では乗り越えられない」壁に当たった人たちがいる、という状況が、今回のワクチン接種とよく似ているということです。今回、担当になったことで全国の若手の方々と接点ができましたけれど、たぶん、ここで頑張った人たちが次の時代をつくるんだなと感じています。

 小金井市がうまくいっている要素があるとすると、まず熱意のある方が多いということ。これが第一です。その上で、あえて言えばですが、関係者全員が「ピースの足りないパズルを組み立てる」かのように連携して、絵を描きながら動いているからなんですね。

自治体の仕事は基本的に「執行」だった

―― そこが、自治体が「従来の発想」のままだと乗り越えるのが難しい、ということですね。ピースの足りないパズルを組み立てるとは、具体的にはどういうことなんでしょう。

:うーん、ちょっと表現が難しいんですけれど……。

―― 私、物分かりが悪いので、うんとシンプルにお願いします。

:……従来は、特に福祉行政は、いい意味で国がしっかりしているから、厚生労働省からかなり細かい通知が来るわけです。例えば「必要な物資はこれこれ、それをこういうふうにいつどこに届ける」「それをこれこれこのように扱え」という情報がはっきり伝達される。分厚いマニュアルとか、Q&A集の形で配布されます。

―― おっ(「マニュアルに書いていないことを徹底検討」した、というフォズベリーの話を思い出している)。

:自治体の仕事は、「中央から来た資料をしっかり読み込んで、誤らずにやる」ということになります。

―― なるほど。

:もちろん一から百まで資料ベースでできるわけじゃありませんが、そういう流れに近いんですよ。

―― 従って「執行機関として完璧に稼働」すればよろしかったと。

:そうですね、あえて言うと「執行」という面が強い仕事だということです。ところが今回の新型コロナワクチン接種は、その前提がひっくり返ったわけです。

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