以下、フォズベリーの岡田さんに無理をお願いしまして、職域接種の際にトラブルを避けることができそうなノウハウをいくつか教えていただきました。接種会場運営の細部にわたるものではなく、通常のマニュアルではあまり触れられていないであろう箇所についてのものです。ご担当の方のお役に立てれば幸いです。

 当然のことですが、企業によって状況が異なる点は多々あるはずですし、「これさえ守れば大丈夫」ではなく、会場運営を考えるための手がかりになれば、という意図で掲載させていただきます。ご了解ください。(Y)

集団接種会場運営のノウハウ

 職域接種のお手伝いをした経験はないので、あくまで自治体様での経験を通してですが、「安全にかつ適切に、医師・看護師の予診接種が進むことを一番の目的とする」ことを、関係者で合意しておく。これが大前提になるのは同じだと思います。

 その上で、会場の規模感を問わずに共通だろうと思われる留意点をお話しさせていただきます。まず、必要な機能は以下になります。

・予約確認 ※あればベター(後述しますが、入場対象の時間帯以外の方を受付前で止める役割を担います)
・受付待機 ※座席を用意する場合は少なくとも1回分の予約枠数が収まる必要あり
・受付 
・予診待機
・予診
・接種待機 ※予診が終わっても前の接種が終わっていない場合に備え、数人分だけでも座席があるとベター
・接種
・接種済証の発行
・経過観察 ※予約枠に対し座席数を設定する必要あり
・次回予約 ※会場内で行わない場合は設置不要
・救護室 ※ベッドが入る広さが必要、かつ、経過観察、医師(予診)の場所に近いことが望ましい
・薬剤保管充填 ※接種の場所に近いこと、そこまで他の導線と重ならない裏動線があるとベター

各行程の所要時間ですが、我々はこのくらいで見積もっています。

1・受付……2:00-2:30(分:秒、以下同じ)
2・予診……1:00-1:30
3・接種……1:00-1:30
4・接種済証発行……1:30-2:00
5・次回予約……1:30-2:00

 1人あたりの所要時間としては、このほかに、行程間の移動時間と、経過観察時間(15分or30分)がかかります。5は会場内で行わない自治体が多いです。

スムーズに行うコツその1「受付が重要」

 接種会場でもっとも負荷を下げたいのは、予診と接種の段階です。言い換えると、「予診」「接種」に負担(イレギュラーな業務発生)を掛けないように「受付」でどこまでカバーできるか、が重要です。

 さらに言えば、その「受付」が詰まらないように、その前段階でどう工夫するか、も、とても大事です。

 具体的には以下のような対策を取っています。

■受付を行う前に、予約時間を確認するステップを設ける(会場入り口付近に設置)

 予約時間前に来た人を受付の前段階で発覚させ、会場内自体に入れない=接種会場の限られたスペースに不必要に人を入場させない、を行っています

■受付の段階で、被接種者が「接種前に相談したい」ことを聞き取っておく

 予診・接種の段階で発覚する前に、相談事項を具体化・解消しておきます。受付の横に相談コーナー(看護師による対応)を設置します。設置できない場合は医師に対して相談事項を聞き取り申し送る(付箋などで書いて渡す)などを行っています。

スムーズに行うコツその2「経過観察スペースが重要」

 接種後にアナフィラキシーなどが起きないかを確認する「経過観察」で必ず15分(通常)か30分(既往症などがあり、特に注意を要する方)の待機を要することから経過観察スペースの座席数に注意する必要があります。

 席数のマックスとしては、15分の予約枠の全人数が、予診の結果「経過観察時間30分」となり、そこに次の15分待機枠の方が来たら、となるでしょう。実際にはそのようなケースは希ですので、スペースとの見合いで経過観察席の人数が決まり、そこから無理のない接種数を算出、となると思います。

 15分、30分の方の区別をどうするか。待機場所を分ける方法も考えましたが、専用化することで利用しない時間帯が発生し無駄が生じるので断念。予診票を見て色別のカードをお渡しする方法を採っています(30分や要配慮の方のみにお渡しする方法を採らないのは「カードの渡し忘れ」か、15分の方なのかの区別が付かなくなるのを避けるためです)。

 カードは接種済証を発行する際に、接種時間と15分後、30分後の時間を書いた「経過観察時間案内用紙」と引き換えになるので、30分の方を目立たせるために、接種の際に服の肩か手の甲に10円玉サイズの赤丸シールを貼らせていただきます。

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接種会場での「よくあるイレギュラー」

 先ほど触れましたが、スムーズに接種を行うにはイレギュラーの影響を最小限に抑えることが大事です。場所別に羅列します。

■入り口

・検温により37.5度以上が出た

 細かいことですが、会場内で予約の取り消しを誰かが行うのか、自治体のコールセンターに非接種者本人から電話をさせるのかなども決めています(どちらの場合も会場の中には入れません)。職域接種ではどのような対応が必要なのかを把握しておりませんので対応自体のアドバイスは控えますが、可能性として考えておくべきことかと思います。

・車いすの方など補助が必要、あるいは導線を分ける必要が生じた

・外国語のみ話せる方が来た

 いずれも、対応する人とその場合のフローを決めておく必要があります。

■受付

・予診票、接種券、身分証忘れ
・身分証の住所違い
・身分証の定義 ※顔写真なしでもよいか、など
・持病に関する質問(事務スタッフでは答えられないもの)の対応

 これは職域接種ではあまり心配はしなくていいのかもしれませんが、自治体の場合は対応が必要です。

■緊急時(アナフィラキシーの発生など)

・緊急連絡、動線など

 これについてはすこし詳しくお話しします。

 まず、緊急時の搬送先の確保。これは大前提です。
 その上で以下について配慮する必要があると考えます。

・経過観察スペースと医師、救護室の位置を近くにする

・緊急時の報告経路フローを確立、できれば訓練を行う

・緊急時の搬送経路の確保、できれば社内だけでも訓練を行う

 最後の搬送路は盲点かもしれません。パーティションの区切り方によっては、ストレッチャーが入れないことや、建物が古いとエレベーターに載らないこともあります。

 実際に集団接種会場でも、ストレッチャーは用いず担架を用意するというケースが発生しています。部屋の中に段差があり利用が困難、というケースもあります。(以上、フォズベリー 岡田陽平氏・談)

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