岡田:我々からしてみれば、それこそ(接種会場に派遣される)人が増えれば増えるほどお金にはなるんですけれども、そうなると今度は、コストの増加に加えて、オペレーションの複雑化、習熟度のばらつき、感染リスクや混雑といったデメリットが出てきます。メリットとデメリットは、必ず同時に提示するようにしています。

―― 増やすと自治体・医師会側にはある種デメリットも生じるわけですか。

岡田:それを共有していただいた上で、それでも1日も早く接種を終わらせよう、という三澤先生の姿勢には本当に敬服しています。「私らもっと(接種数)いけるんだけど」というアピールがすごい。

桑原:はい。負荷が増えますよ、と申し上げても「全然OK、どんと来いよ」という姿勢で来てくださるので、変に気を使わなくていいというか。接種数を増やす、という大前提を共有したうえで、三澤先生は運営の我々を本当に尊重してくださるので、逆にこっちも、医療関係者の方々の考えを尊重しようという意識になりますね。

―― なるほど。だから「前向きなオーバーラップ」になるんでしょうかね。

ちょっとずつお節介を焼く

桑原:当社の西がよく、重ならないマルの図を描きながらこういうことを言うんです。「これが僕の役割で、これが桑原の、これが岡田の役割で」と、誰の領域とも重ならず抜けもない、こうなっていると「これが一番いいじゃん、最小面積でムダがない形」と言われるよね、と。

―― いわゆるMECEですね、抜けなく漏れなく。

桑原:でもうちの会社の社風というか文化は、むしろ重なり合い、はみ出しを大事にしようとするんです。人よりちょっと、いや、人よりというか、自分の役割よりちょっとだけはみ出すことで、仕事としては逆にムダを省いた、手戻りのないものになる。質も高くなる。

―― 重なりがあったほうが、ムダな手戻りのない仕事に。

桑原:そういう考え方と、もしかしたら関連するところがあるかもしれないですね。実際の仕事がそう理想通りうまくいくものでもないし、小金井市の形が本当に理想形かどうかも本当は分かりませんが、すごくうまくいっているのは、みんながちょっとずつ、ちょっとずつおせっかいを焼くというか。

―― なるほど。

桑原:という意味でいうと、まさにその考え方にのっとった形ができたのかもしれません。

―― 心の小さい私からすると、人からその小さい気配りを省かれる、どころか、こっちに気配りを求められると、すごくいらっとして(笑)、お前の仕事なんか最後に回してやる、みたいな感じになるんですよね。逆にちょっと気の利いたことを仕事相手からしてもらうと「うわ、うれしい、3割増しで返すよ」みたいな感じになります。これどこかで聞いたな。そうか、これまたマツダの金井さんだ。うわー(『マツダ 心を燃やす逆転の経営』)。

桑原:小金井市でのお仕事では、どっちが先にとかいう感じでもなくて、不思議と最初からお互いを尊重して、これはあなたの仕事で、ここはお任せするところだけど、もしよければ、とオーバーラップしている。それが余計なストレスにならない、ちょうどいい関係性と距離感を保ちながらやれています。たまたま運よく、なのかもしれないですけど。

 次回は、医師会、会場運営会社との「ハブ」、司令塔になった市役所の担当者の方からお話を伺います。
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