桑原:接種会場で人が滞留するポイントはいくつかあります。受付、予診前の待機などですが、一番時間がかかるのは経過観察(接種後の副反応、アナフィラキシーが起こらないかを確認)です。いかに経過観察のスペースを確保するか。そして、動線をシンプルにできるかがカギだと思います。初回訓練時のレイアウトでは、経過観察の席数確保、動線、ともにやや問題があったと思います。そこで流れを逆にしました。

初回訓練時のレイアウト。緑色の円の部分で、接種を受けに来た人と帰る人が交差する動線になっていた
初回訓練時のレイアウト。緑色の円の部分で、接種を受けに来た人と帰る人が交差する動線になっていた
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現状のレイアウト。経過観察用の席数が30席と倍増した。
現状のレイアウト。経過観察用の席数が30席と倍増した。
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―― なるほど。それを、すっと医師会は受け入れたと。

岡田陽平氏(以下、岡田):「イベントのプロにはプロの考えがあるでしょうから」という形で「それがいいというなら、もうそれに従うよ」という形で信じてくださった。これはでかいですね。

―― うーん、そこで桑原さん、岡田さんが驚かれるということは、あまり「プロを尊重」する方ばかりでもないってことですか。

桑原:実のところ、小金井市の医師会・市役所のように、イベント運営会社の意見を尊重してくださるところは少ないと思います。そして、これも非常に重要なことなのですが、医師会がリーダーシップを持って接種会場の運営に協力してくださっている。

―― ごめんなさい。よく分かりません。接種会場で医師会がリーダーシップを持つのは当たり前のようにも思えるのですが、具体的にどういうことなんでしょうか。

「医師会のリーダーシップ」の意味

西 達郎 フォズベリー取締役(以下、西):あくまで一般論としてしかお話しできないんですが、要は、マニュアルに従っていただけない医療関係者の方が出てきた場合、医師会の方が毅然として対応してくださるかどうか、ということです。もちろん、マニュアルに従わないのは「自分のやり方の方がよりいい結果につながる」という、よかれと思ってのことなのですが。

―― いや、「よかれ」と思ってとはいえ、そこは従わない場合はお帰りいただくべきでは、とも思いますが。

桑原:ややこしいのは、「運営は基本、当社のワンストップ」と申し上げましたけれど(前回参照)、医療系の人材派遣だけは我々とは別なんです。他にも、応援で来ている市の職員さん、施設自体の管理運営をされている事業者さん、ワクチン輸送を担当する事業者さん、などなど、実際にはたくさんの方が接種に関わります。

―― 別のステークホルダーがいて、そちらはそちらで言い分がある、となると、組織間のもめ事になりかねない。

桑原:医療関連の方とのお話が、(接種会場がある自治体の)医師会の人とだけの話で済めばいいのですけど、さらにもう1社加わると一気に複雑になる。例えば業務分担とかが、すごく細かい話ですけど、今回接種の記録を残すために、ワクチンのロットナンバーが記されたシールが発行されるんです。

―― そうですね、接種券に貼るんでしたっけ。

桑原:そのどこまでの作業、記載、シールを貼る作業を誰がやるのか、というようなディテールですね。そこで議論になります。これは「面倒くさいからやりたくない」じゃないんですよ。「そちらでやったほうが効率的だし、時間はかからないと思うからお願いします」ということを現場で言われたりする。その場はそれでいいかもしれないけれども、例えば、複数の会場で接種している自治体さんだったりすると、その手順の変更を全部に浸透させなきゃいけない。

―― どうしてですか?

桑原:もしかしたら、ここで働いていたスタッフが、違う会場に行く可能性がありますよね。

―― 別の会場に行って、この会場での「現場で修正した」手順を引きずってしまう、ということになるのか。

桑原:はい。混乱が起きる原因になりますし、それだけではありません。我々が作っているマニュアルがありまして、これがまさに小金井市さんで使われている、全50ページぐらいの超大作になるんですけど、ここに記載をしたこと自体が「こういう認識で合意をしましたよね」というエビデンスになるわけです。

 もし、ここから外れたことをしてしまうと、何か問題が起きたときに、認識が誤っていたのか、別の原因なのかとかいうことが、中長期的に分からなくなってしまう。このオペレーションに従っている前提で起きたものなのか、それから外れたことによって発生したことなのか。

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