―― なので、チャンスかなと考えられた。

西:2020年の夏に、ワクチン接種ではないんですけれども、静岡県熱海市の海開きや花火大会の運営をしまして、開催に当たって、どういうガイドラインを用意すれば安全だと言えるかというところを、医師の監修を受けながらガイドラインを作らせていただいたんですね。その際に、「お医者さんはこういう考え方をするのか」と、啓発されたことがあったわけです。これは非常にいい経験でした。

―― 普通のイベントと、ワクチン接種はどんなところが違うんですか。

西:普通、イベントは集客目的ですから、人が来れば来るほどいいわけです。言い換えると、密になればなるほど望ましい。

―― あっ、そうか。

西:コロナ禍の中でのイベント運営をすることで、普段とは全く逆の考え方をする機会を得たわけです。そして厚生労働省が集団接種の運営指針、いわばマニュアルのようなものを示した。これを徹底的に読み込んで、検討して、プロポーザルを用意しました。

―― ちょ、ちょっと待ってください。マニュアルがあるのに何を検討するんですか。

西:あ、代表の奥山と、現場の桑原が来ましたので、その辺を話してもらいましょう。

奥山 勝央 CEO(以下、奥山):例えば、接種後の待機時間については当初は詳しい指示がなかったんですよ。

 ですけれど、「でもこれ、絶対に経過観察をせよ、という話になるよね」と思って、お医者さんに聞いてみると、やっぱり取らなくちゃいけないよねという。

桑原 裕 部長(以下、桑原):まだ具体的に決定されていない部分がたくさんあったので、そこは先ほど西の方から話が出た医師会や医療関係者の方とお話ししながら、お知恵を拝借して「ここはこういうことになるんでしょう」と、具体的な形に作り込んだわけです。

奥山:ワクチンの説明書を読んでいると、(経過措置に)2時間取れと書いてあるんです。だけど、接種した方が2時間会場内にいたら、絶対にもたない。

―― そんな待機場所はない、という話になる。

マニュアルに書いていないことを徹底検討

奥山:ならばどれくらい待てば安全と言えるのか、これをヒアリングしていくと「30分ぐらいが目安です」という回答にまとまってきまして、では、30分だとしたらこういうレイアウトになりますね、と会場の作りと接種の流れを考えていく。ここが結構大変だったよね。

桑原:はい、本当に大変でしたね。

:こんなふうに、厚生労働省から発刊される集団接種手引(「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き」、興味がある方はこちら)が2020年12月に出た後に、我々はそれを1週間くらいかけて、スタッフが合宿みたいな感じで読み込んだんです。1週間本当にずっとそれだけを読む期間があって、1月からの自治体へのプレゼンに挑んだという。

奥山:頭で考えるだけではなくて、シミュレーションもやりました。

西:実際どのくらい時間がかかるんだろうねというところを、例えば看護師さんが被接種者の肩を消毒して、実際に注射して、というのをそこの会議室でテストしてみたり。

―― なるほど、なるほど。

西:「これだと1分間で何人、1時間で何人対応できるぞ」というところまで一応シミュレーションして、厚労省の手引にただ乗るのではなく、我々なりに調べて仮説を立てて具体化したと。そこがたぶん当社が頑張ったところですね。

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