トリアージに「過失」が認定されたケースも

 今回の大阪大病院の件も大阪府の問題も、よく「命の選別」などと言われるが、要するにこれは「トリアージ」なのである。医療資源が有限な中で優先的に治療を行うべき患者を選ぶというトリアージは、もはや救急現場のみならず、一般社会でも普及しつつある用語だと思われるが、COVID-19になり、高齢患者の入院の優先順位が下がるという事実が突きつけられると、日本では反発が大きくなる。

 トリアージでも、赤タグ以外を付けられた人やその遺族が、「なぜあいつが赤で、うちは後回しなのだ」とクレームを付ける場面は当然想定されるが、この部分の法的整備は不十分と言わざるを得ない。例えば、神戸地方裁判所令和元年12月3日判決は、グリーンタグを付けられた患者が「結果的にイエロー」だったという事案である。

 概要はこうだ。救急隊員らは午前0時過ぎに82歳女性が倒れているとの無線を受けて出動し、7分程度で患者宅に到着した。隊員らが到着すると、患者の頭部付近に蓋が開いた状態で空になった容量2Lの酒の紙パックが落ちており、テーブルの上にビールの缶と薬の入った容器が置かれていた(記録によればミカルディスとマイスリー、市販薬のノーシン)。

 救急隊員が声を掛けると82歳女性は名前を答え、アルコール臭がした。しかし女性は「飲んでいない」と答えたという。隊員が「しんどいところはないか」と具体的に詳しく聞いても女性は「無い」と言い、手の握り返しがあったのを確認して手首で脈拍をとった。外傷や嘔吐、失禁もなく、日本臨床救急医学会が策定した脳卒中病院前救護標準化プログラム(PSLS)に準拠した脳卒中プロトコールに基づく、「前ならえ」「足踏み」「あおむけのまま天井に向かって手を上げる」などの検査を問題なくこなした。

 歯を見せて笑わせても顔のゆがみはなく、バイタルサインは呼吸数18回/分、脈拍数74回/分、血圧180/80mmHg、SpO2は98%(室内気)であった。

 救急隊員は脳卒中プロトコールによっても「異常なし」と考え、緊急搬送する必要性はないと判断。飲酒によって倒れていた可能性が高く、観察結果にも異常は見られないと家人に伝えた上で、次に何か異常があれば再度救急要請をすることとして、一旦様子を見てはどうかと伝えた。家人も「分かった」と答えたので、患者をベッドに横にさせ、午前0時48分に帰署した。

 しかしその後、女性は両下肢がしびれてトイレにも行けなくなったとのことで、同日午後2時40分ごろ119番通報を行い、まずは病院整形外科に搬送された。患者から疼痛や下肢のしびれの訴えはなかったが、家人が「顔貌や応対状況が普段と違う」と述べたことから整形外科医は内科を紹介し、午後5時半ごろに受診した内科医が左上下肢の運動がやや不良であることから頭部MRI検査を指示したところ、右前頭葉から基底核、後頭葉皮質に急性期梗塞像が認められ、右中大脳動脈に閉塞が認められた。その後、女性は死亡。患者の遺族らが救急隊員の所属する市に対して7500万円の国家賠償請求を行った。