ワクチンの「有効性」の意味

 ところで、普段の診察の中で、「ワクチン接種の効果」について多くの一般人が誤解していると感じたので、少し書き添えておきたい。ワクチンに「95%の効果がある」と言われれば、100人中5人が新型コロナ陽性になるように思える。しかし、実際には「プラセボと比べて95%の効果がある」というのが正しい。具体的に数字を見てみよう。

◆Pfizer社ワクチンの場合
論文

米国を中心に、アルゼンチン、ブラジルなどで臨床試験を実施。2回目のワクチン接種から1週間以上経過した人では、1万8198人中8人が新型コロナ陽性となった。プラセボ投与群では、陽性者は1万8325人中162人。ワクチン投与群での陽性者の割合がプラセボ投与群より95%少ないので、ワクチンの効果は95%ということになる。

◆Moderna社ワクチンの場合
論文

米国内のみの治験。2回目のワクチン接種から2週間以上経過した人で、1万4550人中11人が新型コロナ陽性となった。プラセボ投与群で陽性となったのは、1万4598人中185人。ワクチン接種群での陽性者の割合はプラセボ群より94%少ないので、ワクチンの効果は94%となる。

 ちなみに、Pfizer社とModerna社、いずれのワクチンも「死亡を予防する効果が100%」だったという結果は、注目すべき事実である。なお、各種の新型コロナワクチンについての最新情報は、ニューヨーク・タイムズ誌の特設サイトが参考になる。

 Johnson & Johnson社(J&J社)のワクチンは、Pfizer社やModerna社のワクチンとは異なり、1回の接種だけで済む上、一般の冷蔵庫で保管できる。このため、発展途上国への大量配布が期待されていた。米国でも認可され、既にJ&J社のワクチンを接種した友人も多い。

 ところが、非常にまれではあるものの血栓症の報告が出たことを受けて、米国各地でJ&J社ワクチンの配布は一旦停止された。しかし、米国心臓協会(AHA)と米国脳卒中協会(ASA)が発表したように、新型コロナによる血栓症のリスクの方が、ワクチンによる血栓症のリスクよりも高い。このためワクチンの配布は再開されたものの、いまだJ&J社ワクチンの接種をためらう人は多い。

 海外に目を向けてみると、インドをはじめワクチンへのアクセスが不十分な国では、依然厳しい感染状況が続いている。特殊な冷凍庫などが用意できない地方でのワクチン配布、そして発展途上国でのワクチン配布には、mRNAワクチン(Pfizer社およびModerna社)以外のワクチンに頼るところが大きくなるだろう。世界各国へのワクチンの流通と、感染状況の推移が今後どうなっていくのか、注視していきたい。

 最後になるが、米国から見て、日本の状況はどう映っているのだろうか。以前は友人などから、「日本はうまく乗り切っているらしいね、ニュースで見たよ」と声を掛けられることもあった。それが今や、ニュースでも取り上げられないし、声を掛けられることもない。なぜなら、以前の「超高齢者社会なのに、なぜか死亡者が増えない奇跡の国」という位置付けから、「新型コロナによって医療崩壊が進み、経済的にも苦しんでいる大多数の国の1つ」という評価に落ちたからではないだろうか。オリンピックの開催によって、世界各国に変異種をまき散らすことにならないといいのだが。もしそうなったら、米国のニュースで悪い意味でJAPANの名をよく聞くことになると思う。想像するだけで心苦しい限りである。

緒方さやか(おがた さやか)氏
婦人科・成人科NP
親の転勤で米国東海岸で育つ。2006年米国イェール大学看護大学院婦人科・成人科ナースプラクティショナー学科卒。現在、カリフォルニア州にある病院の内分泌科で糖尿病の外来診察を行っている。
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