この記事は日経メディカル Onlineのコラム「記者の眼」で2月28日に配信したものを日経ビジネス電子版に転載しています。

 今週の日曜日(2022年3月6日)、東京マラソンが3年ぶりに「復活」する(注)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受け、この2年近くは様々なリアルイベントが中止や延期に追い込まれてきた。東京マラソンも例に漏れず、一般市民が参加するスポーツのイベントとしては国内最大級であるからこその苦悩もあった。医療提供体制の逼迫度が高まる中で、不要不急のスポーツイベントを実施する意義があるのか。東京マラソン財団で経営企画室長を務める酒井謙介氏に話を伺い、ランナーの1人として考えた。

(注)大会開催1カ月前以降に、行政機関から緊急事態措置等によるイベントの開催自粛要請が発せられた場合、大会を中止すると大会要項に書かれている。
東京マラソンは市民ランナーの憧れの存在だ(写真は2018年大会、提供:東京マラソン財団)
東京マラソンは市民ランナーの憧れの存在だ(写真は2018年大会、提供:東京マラソン財団)

 まず、この記事はある程度バイアスがかかっていることを最初に示すのがフェアだろう。私は、ランニング愛好家だ。これまでにフルマラソンの大会に10回以上出場しており、いわゆるサブフォー(4時間以内に完走するランナー)にもなれた。ランニングを通じて友人の枠も広がり、私の人生を豊かにする上で欠かせない存在となっている。だからこそ、東京マラソンはぜひ復活してほしいと願ってきた。3万8000人のランナーが走る東京マラソンは日本最大の規模を誇る。その象徴的な大会が復活すれば、中止を余儀なくされてきた他の大会も、再開する機運が高まると期待している。

 ただ、世の中の大多数の考えは、自分とは異なることも自覚している。そもそもマラソン大会を実施すること自体、はた迷惑とお怒りの方もいるだろう。天下の公道を半日近くも占領するので、公共交通機関にも多大な影響を与える。ましてや、今はコロナ禍だ。2022年に入ってからオミクロン株による感染拡大が広がり、いまだに1日当たりの新規感染者は東京都で1万1794人、全国で6万8836人となっている(2月25日時点の7日間平均)。グラフ上は感染のピークが過ぎたように見えるが、重症患者や死亡者は今後も増える可能性が高い。医療提供体制は、依然としてひっ迫している。

 こうした状況下、批判的な人から「オマエら遊んでいる場合か?」と詰められたら、市民ランナーは首をうなだれるしかない。競技に真剣に取り組んではいるが、あくまでも趣味の延長でしかない。生活がかかっているプロのアスリートとは同列に考えるべきではない。それでも私は、東京マラソンは2022年3月に開催してほしいと心から願っている。それはランナーとしてのエゴだけではない。大げさに感じるかもしれないが、日本中がむしばまれている「ゼロリスク症候群」を解消する一大転機になると期待しているからだ。

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