社長提案の商品に社員がダメ出し

鹿毛 以前、参加者が毎日、流行りそうなものを投稿するメーリングリストを、「なにやら流行るこんなもの(NHK)」と呼んで運用していました。それがきっかけで、話したこともなかった人同士が社内の廊下ですれ違って笑い合うということが起こっていました。堅い言い方ですが、会社のマネジメントについてはどうお考えですか。

糸井 「いいね」「ちがうんじゃない?」って気軽に言える関係が良いですね。

 ほぼ日では以前、「ほぼ日のアースボール」という地球儀を発売しました。大元のアイデアはいつか映画で見た「織田信長が献上された地球儀をけとばす」という記憶なんです。映画の名前は分からないままなのですが、「地球って自由に蹴飛ばせるのか」と驚いて、地球儀がそんな存在になったらいいのにって思ったんです。

「ほぼ日のアースボール」は2017年12月1日に発売した、ビーチボール型の地球儀。AR(拡張現実)を活用した、専用のスマートフォン向けアプリを提供しており、地球儀と併せて使うことでさまざまな情報を見られる。例えば、アプリの国別情報のコンテンツを選び、スマホのカメラレンズを地球儀にかざすと、地球儀上に各国の国旗が表示される。国旗をタップすると人口や通貨、インターネット利用者率などが見られる。
専用のスマートフォン向けアプリを通じて地球儀を見ると、さまざまなコンテンツを閲覧できる
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専用のスマートフォン向けアプリを通じて地球儀を見ると、さまざまなコンテンツを閲覧できる
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専用のスマートフォン向けアプリを通じて地球儀を見ると、さまざまなコンテンツを閲覧できる

 ところが、このアースボールを会議で提案したところ、「よく分からない」とか、「私なら買わない」といった意見が出ました。ここまではっきりと反対されたのは初めてでした。ですが、「いらない」という意見が平気ででるのは良い会社だと感じました。賛成も反対もある企画を、どうすればいいんだろうと、ぼくの心に火が付きました。

 マネジメントをしているという意識はあまりありませんが、意見を言い合える風通しのいい組織作りを目指してきました。だって、嫌じゃないですか。あいつが文句を言いそうだなと考えながら、会議で提案をするのは。

鹿毛の視点
 「それは飛鳥時代の人も喜ぶのかなあ」と、ほぼ日の会議中に投げかけるという糸井重里さん。

 いま、マーケターには「人を洞察する能力」と「技術を使う力」の2つが求められます。デジタルマーケティングの進化によりデータに基づく行動分析は精緻に分析できるようになりつつありますが、人の心は先端のマーケティング手法や技術でもわからない。では、糸井さんがなぜ成功しているのか。それは、ご自身が「何万年も変わらない人の心を持った消費者」だということを前提に自分自身と会話をする。その上で、ネットやEC(電子商取引)といった変わり続けるテクノロジーを使いこなしているからです。それはマーケターそのものだと感じました。

(写真/山田 愼二)

『「心」が分かるとモノが売れる』

いちばん謎なのはじぶんである。
いちばん親しいのはじぶんである。
だったら、じぶんと語りあおう。

糸井重里

 消臭剤「消臭力」で知られるエステー。同社は独自視点の広告クリエイティブや消費者コミュニケーションで、CM好感度ランキングで何度も上位にランクインしてきた。エステーの広告宣伝費は、競合の大手企業に比べておよそ10分の1。にもかかわらず、成果を出し続けられるのはなぜなのか。その秘密は顧客のインサイト、すなわち「心」の理解力にある。

 人間の嗜好や行動は5%の顕在意識と、95%の潜在意識によって成り立っていると言われる。人は自分が商品を買った理由の大半を自分でも説明できない。こうした潜在意識は、既に確立された「4P理論」「STP分析」といったマーケティングのフレームワークではたどり着けないと著者は言い切る。顧客の深層心理を理解し、本人も気付いていない心に響くコミュニケーションの実現がエステーの広告の訴求力につながっている。

 そうした、「心」に寄り添うエステーのコミュニケーションをけん引してきたのが、名物宣伝部長として、顧客からも愛される著者の鹿毛康司氏だ。本書には鹿毛氏がこれまでのマーケティング活動で培ってきた、顧客の「心」に触れるためのノウハウを余すことなく詰め込んだ。

(この記事は、日経クロストレンドで2018年4月6日に配信した記事を基に構成しました)

※この記事を含む特集「エステー鹿毛執行役 100番勝負」は日経クロストレンドに掲載されています。

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この記事はシリーズ「「売れる」を解明 「心」のマーケティング」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。