「ほぼ⽇⼿帳」「ほぼ⽇のアースボール」「カレーの恩返し」。もともとは「ほぼ⽇刊イトイ新聞」というWebメディアから始まったほぼ⽇だが、今では変わり種のヒット商品を数多く⽣み出している。「⾃分とみんなが喜ぶことをする」という根底の考えは、マーケティングそのもの。ヒット商品を⽣み出す糸井重里⽒の神髄、それは⾃分の⼼の中にいる「⼤衆」との会話だ。

糸井氏を人生の師と仰ぐ、かげこうじ事務所(東京・新宿)の鹿毛康司氏。同氏の著書『「心」が分かるとモノが売れる』で、顧客の「心」を理解するには、まず自分の「心」と対話できるようになる必要があると記している。まさしく、糸井氏の言う自分の心の中の大衆と会話するという発想とぴったり一致する。糸井氏が考える“マーケティング”に鹿毛氏が迫る。

ほぼ日の糸井重里社長(左)とかげこうじ事務所代表の鹿毛康司氏(右、撮影時はエステー執行役 エグゼクティブ・クリエイティブディレクター)
ほぼ日の糸井重里社長(左)とかげこうじ事務所代表の鹿毛康司氏(右、撮影時はエステー執行役 エグゼクティブ・クリエイティブディレクター)
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鹿毛康司(以下、鹿毛) 大学に入り、そこで出会ったのが(広告専門誌の)「広告批評」でした。それを見て、糸井さんに憧れて、広告宣伝への道を歩みました。以前在籍していた雪印(現・雪印メグミルク)で事件が起こった時に、実は糸井さんにメールで相談をしたこともあります。そのときにいただいたメールは、今も大切に保存しています。マーケターとしての私に大きな影響を与えた糸井さんですが、これまでマーケティングを学ばれてきたのでしょうか。

糸井重里氏(以下、糸井) 取り引き相手の言っていることが理解できないと困るため、なぞってはいるものの、この10年の間をおさらいしていることが多いですね。しかも、それは本当かな?と感じた時のために勉強しているようなものです。

 消費者を分析するときに一旦、数に置き換える、あるいはコンピューター上の点に置き換える。そうして、消費者がどう動いているかを離れた距離から俯瞰するのはたしかに面白い。

 (性別や興味関心といった)属性というものをいくつかの目印にして、魚のいるところに投網を投げる(ように広告を配信する)。すると魚が穫れる。たしかに当たる精度は高い。それはマーケティングをする側にとっては良いことかもしれませんが、立場が逆になると、ふざけんなという気持ちになります。まるで、お見合いでこれからさまざまな幸せになる条件を見せられて、だから結婚しましょうと説得されているのと同じ気持ちになるわけです。

鹿毛 マーケティングには人の気持ちがない?

糸井 マーケターの言うことはここをせき止めると、人はこう動くと話しているようなもの。魚を捕るにはそれでいいかもしれません。ですが、人間同士の付き合いで失礼のないようにと考えると、それがお互いにとって本当にやりたいことではないように思います。

鹿毛 糸井さんはマーケティング調査はされないのでしょうか。

糸井 自分の心の中に大衆がいますからね。場面によって、2つの立場をもっているのではないでしょうか。1つは送り手側として、どれだけ効率的に多くの人に商品やメッセージを送り届けるか。それはそれで、立派な仕事だとは思います。ですが、それがもう1つの立場である受け手側になると、企業のマーケティングの意図が透けて見えると引いてしまう自分もいるはずです。人は立場によって見える風景が異なる。だから、受け手として鍛えられていないと、企業の論理だけでマーケティングをしてしまい、受け手の視点を失うことになりかねません。それには自分の心の中の大衆と会話をすることが重要です。

続きを読む 2/2 自問自答をすることが大切

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