会計の学習は「WHAT?」ではなく「WHY?」
一連の事象を理解するために、両者の言語の違いに注目すると、対立の背景が見えてくる。同じ会計がテーマであっても、経理部長の言語は「WHAT?」、つまり会計のルールや定義を説いている。それが経理部長の使命であり、要求されたスキルなのだから、当然といえる。一方の稲盛氏の言語は「WHY?」、つまり「なぜそうであるのか?」という理由を問い詰めている。同じ会計がテーマであっても、言語が異なれば対立が鮮明になるのも納得できる。論点がまったく別の場所に存在しているのである。

粉飾決算が横行し、企業コンプライアンスが強化される昨今、決して会計ルールを軽視すべきだと言っているわけではない。ルールを守ることは、すべてに優先する当然の話だ。一方、多くのビジネスパーソンにとって、細かな会計用語を記憶することや、会計ルールの詳細を理解することは、仕事の上ではあまり役に立たない。ましてや簿記の仕訳が正確にできるかなどは、知っていて損はないが、ビジネスの成功における十分条件にはなり得ない。
それよりも、稲盛氏の姿勢にある、経営と会計数値をいかに関連づけて考えるかの重要性のほうがはるかに大きい。つまり、「WHAT?」よりも、「WHY?」を考え抜き、そこから得られる結論を具体的な行動に結びつけることができるかどうかだ。「WHAT?」と「WHY?」は二者択一ではないが、多忙なビジネスパーソンの時間は限られている。大切なリソースを割くべきは、「会計のWHAT?」の学習ではなく、「会計のWHY?」の追求である。
先に挙げた書籍の中で稲盛氏が明言している言葉を紹介しよう。技術者出身であり、創業者であり、東京証券取引所1部上場の大企業2社の経営者を長く務めた稲盛氏の言葉だ。捉え方によっては、稲盛氏ほどすべてを経験された日本人経営者はいないかもしれない。そんな方が明言している言葉である。
「会計がわからなければ真の経営者になれない」(『稲盛和夫の実学─経営と会計』)
会計のロングセラー、全面リニューアル!
人気ビジネススクール教授が教える「会計×経営戦略」のハイブリッド学習法。会計は、経営戦略と同時に学ぶことで理解できる。トヨタ、ニトリなど、人気企業の決算書を「経営戦略」とリンクさせて読み解く!
ビジネスには会計数値を読み解く力=会計力と、企業活動を考察する力=戦略思考力が必要だ。「WHY ?」「SO WHAT ?」の2つのキーワードで、決算書をロジカルに深く読み解き、2つの力を一度に身につけよう。 大手企業の選抜研修を中心に、多くのビジネスパーソンに会計と経営戦略をディスカッション形式で講義している人気MBA教授による解説。
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