京セラ創業者・稲盛和夫氏が抱いた会計への疑問

 ビジネススクールや企業内研修の社会人学生に対して私が推奨する1冊に『稲盛和夫の実学─経営と会計』(稲盛和夫著)がある。言うまでもないが、京セラの創業者であり日本航空の代表取締役会長を務めあげた稲盛氏の著書で、会計分野のベストセラーでありロングセラーでもある。会計に関する稲盛氏の考え方が余すところなく記された本書は、社会人であればどんな職場にいる方にも推奨できる名著だ。同書の冒頭に記された、興味深いエピソードをひとつ紹介しよう。

 創業8年目に京セラに入社した経理部長に対して、自称「技術経営者」である稲盛氏は、会計に関する疑問について、矢継ぎ早に質問をした。ところが経理部長の回答は、「会計ではそういうことになっている」という、いわばルールの説明に終始する。一方の稲盛氏はといえば、「経営の立場からはこうなるはずだが、なぜ、会計ではそうならないのか?」と切り返し、いつも意見が対立して、激論となったそうだ。しかし数年後、経理部長の態度は一変して、こう言ったとのこと。

 「社長の言っていることは、会計の本質を突いているのではないか」

 稲盛氏の相手は経理部長である。どう考えても会計のプロは経理部長であり、経理部長からすれば、当時の稲盛氏は恐らく会計の素人に映ったはずだ。でありながら、会計という共通のテーマ、しかも一方の経理部長にとっては専門領域の話題でありながら、意見が対立したという事実、そして最後は経理部長が社長の言っていることこそ会計の本質を突いていると認めていることは、実に興味深い。

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