第1回では、経理部以外のビジネスパーソンが会計とどのように向き合うべきか解説する。日本の名経営者である稲盛和夫氏が指摘したように、会計の細かなルールを覚えるよりも、大事なことがあるという。一体、それは何か。
新入社員から管理職、経営陣まで、すべてのビジネスパーソンに役立つ内容を『ビジネススクールで身につける会計×戦略思考』から一部を抜粋してお届けする。
「御社の前期の連結営業利益はいくらでしたか?」
「売上高営業利益率はどれくらいだったでしょう?」
これらの質問は、私が受講者に対して開始直後に問いかける質問の一例だ。驚くような事実だが、これらの質問にまともに答えることができる人は、受講生が20人いたとしても、せいぜい1人いるかいないかである。売り上げを高めるため、利益を高めるため、あるいはコストを削減するために、日々厳しい業務をこなしているはずなのに、その結果となる会社全体の売り上げや利益に対してこれだけ無頓着なのは一体なぜだろうか。
考えてみれば会計ほど私たちの生活に身近な話はない。「日本経済新聞」を読めば、会計用語であふれている。職場では、売り上げやコストの話をすることなく、1日の仕事が終わることは稀(まれ)なはずだ。パーツ、パーツでは、実に会計に密接した生活を日々送っているのが現実である。ただし、あくまでパーツの話だ。パーツが組み合わさった姿である損益計算書や貸借対照表が登場した瞬間に、それは自分にとっての異次元の世界となってしまう。
なぜ多くのビジネスパーソンは、「会計」に対して大いなる嫌悪感と苦手意識を抱き、時には無関心でいるのだろうか?
これは、20年にわたりビジネススクールや企業内研修で、会計分野の教員・講師として、社会人学生と面してきた私自身に対する問いかけだ。私の経験に基づく答えは、
会計 = 「会計用語の暗記」「会計ルールの理解」
という固定観念を持つ人ほど、会計に嫌悪感や苦手意識を抱き、結果として「会計=近寄りたくない世界」という負の思考回路に陥っているということだ。逆に、会計の数値を企業活動と結びつけて考えることができる人ほど、会計を手段として上手に使いこなすことができている。
そもそも会計の数値は企業活動の結果を表すものであって、企業活動なくして数値は発生しない。よって、会計の数値を見れば、企業活動をある程度類推することは可能なはずだ。逆に、企業活動、具体的には企業が置かれた経営環境、業界の特性、あるいは経営戦略を紐(ひも)とくことで、その企業の会計数値の構造をある程度類推することも可能なはずである。この両者の往復が抵抗なくできる人ほど、会計を有益なツールとして活用できている。
では、この両者の往復は、どうすればスムーズにできるのだろうか。まずは実際にこの両者の往復を現場で行う経営者の姿から見てみることにしよう。
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