とはいえ、入社からわずか1年後にラクスルを起業しました。
松本氏:コンサル会社に入りましたが、入社したらすぐにリーマン・ショックが起き、トップライン(売上高)を伸ばすという攻めの提案ではなく、いかにボトムライン(最終損益)を改善するかの守りの提案が主でした。私自身、コスト削減系のプロジェクトを多く調べている中で、印刷業界が非効率だということに気づきました。印刷業界を変える仕組みをつくればビジネスが成立するのではと考えたわけです。
手掛けている企業がないので起業へ
社会人経験1年で起業に挑みます。ハードルは高くなかったのでしょうか。
松本氏:私自身は目の前にある課題を解決したかったんです。そこで、先行して課題解決に挑んでいる企業を探したのですがありませんでした。転職先がないのなら、自分でつくろうと考えて起業しただけです。もし当時「ラクスル」があれば転職していたと思いますよ。
09年にラクスルを起業し、現在は印刷だけでなく、物流のシェアリングサービス「ハコベル」や広告のプラットフォーム「ノバセル」を展開しています。事業を拡大する中で重視した点は何ですか。

松本氏:我々の事業は「リアル」なものを扱っているので、ビジネスモデルの「解像度」を重視しています。ビジネスモデルそのものは重要ではなく、むしろ何でもいい。大事なのはお客様の課題を解決しているか、実際に使ってもらえるかという現場感ですね。それを解像度と呼び、徹底的にこだわっています。社内で議論する中で一番出てくる言葉が解像度です。まさに「A社の田中さんに向けて」といったように個別具体名を挙げて課題を抽出し、それに対して何ができるかを重要視しています。
手段というよりも課題解決が重要なわけですね。
松本氏:どれだけ素晴らしいビジネスモデルでも役に立たなければ意味がありません。社内では「役立つものをつくろうよ」と話しています。他の人と同じことに取り組んでも、我々よりもっとうまくできる人がいるはずなので、収益は出しづらい。古くからやってきた人が有利になります。そうではなく新しいやり方で、お客様の役に立っているかどうかを徹底的に考えています。
新規事業を進めるうえで心がけていることは。
松本氏:自分は世の中を理解していないという前提に立っています。分からないものはたくさんあるし、動くと景色が変わります。完璧な情報を持っていないと考える背景には、学生時代の様々な経験があります。違う国に行けば自分の常識が通じないし、大人が「できない」ということも学生の立場ならできた経験もあります。ほとんどの人は未来が見えておらず、やってみると違う景色が見えてきます。今の景色だけで判断すべきでないことを、学生時代に学びましたね。
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