日本のネット業界にどこかしっくりこない状況で、グーグルに行ってみたらすごい研究肌の人たちが本気でやっている。その姿を見て刺激を受けたと。

佐々木氏:そうですね。その後、中小企業向けにビジネスをする中で、「テクノロジーを知らない人に広めることにもすごく意味がある」と気づくことができました。本気で技術と向き合うということと、それを広めていくこと。両方の意味に気づけたのは、「すごくいい偶然」だったなと思いますね。

偶然なのでしょうか。それとも、普段から自分の「間口を広げる活動」をしていたから、出会えたのでしょうか。

佐々木氏:間口を広げる活動……。していたかもしれません。例えば大学時代、ネットベンチャーのインターンシップとしてデータ分析をしていましたが、そこに投資していたベンチャーキャピタルに存在を知られていたので、グーグルから声がかかったということがありました。インターンで成果を出したから今につながったので、そういう意味では、完全な偶然ではないですね。

大学時代にインターンに参加したきっかけは何だったのでしょうか。

佐々木氏:ITベンチャーの流行期で、仲の良かった友人が「インターンをしているとプログラミングができるようになる」と話しているのを聞いて、始めました。起業したいとかは全くなくて。同じインターン参加者は泊まり込みで仕事をしているとき、夜中に起業談義をしていましたが、私は一切興味がありませんでした。黙々とデータと向き合っている方が好きでしたね。

グーグルから声がかかるほど成果を出しているのに、当時のネット業界に、どこか物足りなさを感じていたんですね。

佐々木氏:自分が得意だからどんどんやっていきたいという分野が、見つからなかったということかもしれません。

2019年12月、freeeは東証マザーズに上場した。右が佐々木氏、左は共同創業者兼CTO(最高技術責任者)の横路隆氏
2019年12月、freeeは東証マザーズに上場した。右が佐々木氏、左は共同創業者兼CTO(最高技術責任者)の横路隆氏

人生の転機で指針を示してくれる友人たち

国内有数の進学校、開成中学(東京・荒川)に進学されたとき、勉強だけでなくスポーツでも優秀な同級生たちに圧倒され、アイデンティティークライシスに陥ったという話を過去にされています。体験として、どこか似ているように聞こえますね。

佐々木氏:すごく似ているような気がします。

佐々木さんが自信を失ってしまったときに、何をしてきたかを聞いた方が若い読者のためになりそうですね。

佐々木氏:面白いですね。「ちょっと違う人たち」と付き合うようにしました。高校生なら、学校の中ではなく交流範囲を広げて。

どんな人と交流したのですか。

佐々木氏:どんなというより、今まで付き合ってきた人とは違う人ですね。遠い別世界に行ったわけではなく、小学校の頃の友達の友達といったような感じです。あとは、より好みせず、一度しか会ったことがない人とも遊んでみるとか。社会人になってからは、本も読んでみました。『仕事は楽しいかね?』(デイル・ドーテン著 野津智子訳、きこ書房)とか。悩める人が読みそうな本でしょう?(笑)

グーグルを辞めた後に起業して、上場させた経歴は、すごく華やかに見えますが、普通の悩みを持っていたんですね。

佐々木氏:そうですね。グーグルに入るか入らないかという時期、「検索エンジンは国産でなければならない」という論調がありました。そんなときに外資の黒船に入社するのはどうなんだろうとも思ったのですが、友人と2人でタイに旅行に行っている最中に「日本にグーグルがない世界の方がリスクじゃないか」と言われて、決断しました。

インターンへの参加やグーグルへの転職などターニングポイントには友人がいますね。

佐々木氏:そうかもしれないですね。私は人から聞いたことを実践しているのかもしれない。振り返ると、友人と議論しているときに僕自身にブレークスルーが起きていると感じます。

起業したときにも、友人は関係していましたか。

佐々木氏:グーグルで一緒に仕事をしていた同僚の中に、一度起業して失敗した韓国人がいました。その同僚の言葉は、どこか真実味があって深いというか。やはり一度会社をたたんでいる人は違うなと(笑)。

 私にとってグーグルは4社目でしたけど、当時の日本企業は転職が多い人を採用したがらなかった。しかしグーグルでは「変化に強いね」「そういう失敗しているやつすごいよね」という感じでした。仮にうまくいかなかったとしても、こんな価値観で評価してくれる人たちがいるなら、人生にリスクはないよね、と思えたのです。

人生の転機で友人や知人がたびたび登場します。佐々木さん自身は話を聞いて共感しやすいタイプなのか。それともたくさんの人の話を聞いているうちに刺さるものを見いだす、という感じなのか。どちらでしょうか。

佐々木氏:むやみに交友関係を広めるというより、変なところに着目するのが好きです。少し失礼な言い方かもしれませんが「ちやほやされていない人」に価値を見いだして、この人のこういうところ、面白いよねという、違った部分を見つけるのが好きなんですね。そして、その人が実践していることや考えていることを自分なりに、少し抽象的にして取り込むのが得意なのかもしれません。

次ページ 議論の応酬を通じて「耳」から学ぶ