<span class="fontBold">「日経ビジネスLIVE」とは</span>:「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト
「日経ビジネスLIVE」とは:「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト

 ビジネスパーソンとしてどう成長していくか――。特に若い世代では大きな関心事です。では、注目を集める成長企業の経営者は、30代までに何を学び、どんな経験を積んできたのでしょうか。本インタビューシリーズでは、若手ビジネスパーソンにも知られる起業家・経営者に「自分の今を形づくった若い頃の経験、努力、失敗」などを振り返っていただきます。

 本シリーズと連動して8月から、こうした起業家・経営者の経験やビジネススキルをオンラインで学ぶ、日経ビジネスLIVEの第2弾を若手読者向けに展開していきます(電子版有料読者は受講料無料です)。ウェビナーの日時・プログラムの詳細は記事末尾をご覧ください。

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 米グーグルで中小企業向けのマーケティングを担当したことをきっかけに、2012年に中小企業向けのクラウド会計システムを扱うfreee(フリー、東京・品川)を創業した佐々木大輔CEO(最高経営責任者)。有望なフィンテックベンチャーとして注目を集め、19年12月に東証マザーズに上場した。なぜ日本の中小企業に注目したのか。佐々木氏は、「地味なところに面白さを見いだす」ことが、人生の力になったと語る。

大学卒業後、大手広告代理店などを経て米グーグルに入社。スタートアップを起業し、東証マザーズに上場させました。激動の人生を歩んでいるように見えますが、特に大きな転機はいつだったのでしょうか。

佐々木大輔・freeeCEO(以下、佐々木氏):グーグルに転職したことでしょうか。日本とアジアの中小企業の広告売り上げが少ないので、中小企業向けのマーケティングを担当することになりました。それまではデータ分析の仕事が主だったのですが、不景気になると外資系企業は「直接的にお金につながる仕事」にリソースを集中するんですね。

 スモールビジネスの人たちは、先代や先々代から受け継いだ顧客基盤の範囲でしか仕事をしておらず、グーグルに広告が掲載できることを知らない。グーグルを使って日本全国や世界に新しい販路を開拓する例を目の当たりにしました。

 実は、それまでは「仕事の意義」をあまり感じられませんでした。スポーツのように「勝つためにやる」という感覚だったのですが、世の中に意義があるビジネスに出会えたと感じました。美容院をやっていた私の母親が「うちもグーグルで広告を出そうかしら」とか言い始めたんですよ。こんな風にスモールビジネスの経営者の選択肢が広がっていく。世の中への「インパクト」みたいなものを見つけられたことが大きかったと思いますね。

<span class="fontBold">佐々木大輔(ささき・だいすけ)氏</span><br> 1980年東京生まれ、美容院を営む家庭で育つ。一橋大学商学部卒業。博報堂に入社した後、投資ファンドやITベンチャーを経験。2008年に米グーグル入社。日本及びアジア・パシフィック地域でスモールビジネス向けのマーケティングチームを統括。FAXやチラシ広告が主流だった日本のスモールビジネスへインターネット広告の活用を推進した。12年に中小企業向けのクラウド会計システムを手掛けるfreeeを設立し、19年に東証マザーズに上場させた。一橋大学経営協議会委員。
佐々木大輔(ささき・だいすけ)氏
1980年東京生まれ、美容院を営む家庭で育つ。一橋大学商学部卒業。博報堂に入社した後、投資ファンドやITベンチャーを経験。2008年に米グーグル入社。日本及びアジア・パシフィック地域でスモールビジネス向けのマーケティングチームを統括。FAXやチラシ広告が主流だった日本のスモールビジネスへインターネット広告の活用を推進した。12年に中小企業向けのクラウド会計システムを手掛けるfreeeを設立し、19年に東証マザーズに上場させた。一橋大学経営協議会委員。

スモールビジネスの担当になったのは、偶然なのですか。

佐々木氏:いえ、どちらかというと自分でやりたいと申し出ました。データを分析しているうちに、オポチュニティー(機会)があるなと。ただ、機会があるとは思いましたが、最初から何か意義を見いだしていたわけではなく、取り組んでから気づきました。まさにリーマン・ショックだったので、2008年の冬ごろ、28歳かな。

それまではスポーツのように勝ち負けを楽しんでいたという話でしたが、勝負は面白かったですか。

佐々木氏:どうかな……。

「空疎だったかもしれません」

どこか空疎なものを感じていたのでしょうか。

佐々木氏:空疎だったかもしれません。グーグルに入る前は日本のネット系ベンチャーで働いていましたが、あまり刺激を受けなくて。その会社、というよりネット業界全体にですね。「もう少し研究をしたいから大学院に行こうか」と考えていた頃、グーグルに誘われました。「世界に目を向けたら変わるかもしれない」と期待して、転職しました。

今もネット業界で事業を営んでいます。当時は何が物足りなかったのですか。

佐々木氏:テクノロジーと向き合っている感じが、あまりなかったんでしょうね。当時のネット業界は、ビジネスモデルとコンテンツの全盛期でしたが、僕はテクノロジーそのものが好きだった。実際、グーグルは全然違いました。

 周りには米国の大学で博士号を取ったような人ばかりがいて、「今後これだけサーバーの負荷が高まるので、こういう調達をしなければならない」などと英知を振り絞ったような分析をしていたんです。「全然勝てないな」と感じました。彼らは技術や専門性を大事にしていて、「こういうのがテクノロジー企業だよね」と思えるような世界でした。

研究肌の仲間が集まるグーグルで、ある程度、大学院に行こうという目的が満たされたのでしょうか。

佐々木氏:そうかもしれません。ただ、今振り返ると「大学院で研究したい」というのは、ある種の「逃げ」だったかもしれません。ビジネスモデル、コンテンツ全盛期のネット業界で、「自分はデータ分析をしている方が好きだなぁ」という、何かそれぐらいの感覚でした。

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