ダイヤモンド社に残っていれば、敏腕編集者として引っ張りだこになっていたと思います。なぜ起業を決断したのでしょうか。
加藤氏:もしドラは売れていたのですが、出版市場全体はシュリンクしていました。このまま続けていては「椅子取りゲーム」になってしまいます。編集者の仕事はクリエーターの思いを届けること。本を出すことだけが、クリエーターの目的ではありません。
今ではだいぶ変わりましたが、出版社はそもそも紙の書籍を売るための組織です。ダイヤモンド社は09年から電子書籍のアプリを始めたのですが、ときには既存事業とぶつかることもありました。これは業界の構造的な課題です。

出版業界も出版社だけではなく取り次ぎや書店などいろいろな組織でエコシステムを形成しています。「クリエーターと読者をつなぐ仕組み」を作るにはどうすればいいか。考えた結果、独立した組織でやった方がいいのでは、と思うようになりました。
当初から起業を思い描いていたわけではありません。知り合いのNPOの立ち上げを支援したりフリーランスで編集の仕事をしたりと、退職した後、半年ほどフラフラしていました。
背中を押してくれたのは、サラリーマン時代につながった会計士の方でした。今はベンチャーキャピタル(VC)の代表をしています。飲み会の席で「メディア企業にはデジタルに根本的に対応する仕組みがない」と話したところ、「じゃあ加藤さんがやればいいんじゃないですか?」と言われたんです。
それまでは、お金がないと起業できないと思い込んでいました。ところがアドバイスをくれたのは、起業ファイナンスの本を執筆したこともある、その道のプロでした。11年に「ピースオブケイク(現note)」を立ち上げた後も、そのVCの方が出資してくれました。
起業はスムーズに進んだのでしょうか。
加藤氏:そりゃあもう大変です。お金も信用も何もないところから始めるわけですからね。物件を借りて掃除をして、エンジニアを採用しないといけない。資金も調達する必要があります。社員の給与を振り込むため、ATMに駆け込んだこともあります。
12年にコンテンツ配信サイト「cakes(ケイクス)」を始めたのですが、メディアの顔となる連載も、すべてイチから立ち上げる必要がありました。まだ存在しない媒体に執筆してもらうよう頼むのは、すごく難しいんです。「媒体を始めるので力を貸してもらえませんか」と作家さんなど100人近くに会いに行きました。立ち上げ時点で50本くらいの企画を用意しましたし、それを続けないといけない。「やばいことに手を出したなぁ」と正直思いました(笑)
14年には投稿プラットフォームのnoteも立ち上げました。起業はものすごく大変ですが、「続けること」はもっと大変です。我々は「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」をミッションにしていますが、「続けられる」に特に力点を置いています。クリエーターが投稿した内容を出版社と連携して書籍化したりテレビ局と組んで映像化したりして、コンテンツ制作を継続しやすい環境を提供していきます。
改めて振り返り、20~30代でやっておくべきことはありますか。
加藤氏:好きなものを見つけ、その上で表現することです。僕は小さい頃コンピューターが大好きでしたが、地元の新潟にはそういう小学生は全然いない。ところが雑誌を開くと日本中のオタクの子供たちがプログラムを投稿していて、仲間を見つけることができました。今はネットで何か発信すればすぐに反応が得られます。好きなものを発信して仲間を作るのも、現代の特権ではないでしょうか。
一方、好きなものが見つからない場合もあるのではないでしょうか。
加藤氏:それは確かによく聞きます。それなら「貢献」にフォーカスすればよい。自分は楽々できて、なおかつ人に喜ばれることがあるはずです。上司の役に立つことが得意な人もいるし、お客に貢献することが得意な人もいる。自分の大好きなことならなおさらよいし、「嫌じゃない」だけでも十分なのではないでしょうか。
「若手時代にやっておくべき10の挑戦」シリーズ

■特別講演 2021年7月1日(木)19:00~20:00
テーマ:尖っていれば磨いてくれる~リチウムイオン電池開発にもつながった若き日の研究
講師:旭化成名誉フェロー 吉野彰氏→終了しました
■第1回 2021年7月6日(火)20:00~21:00
テーマ:人間心理を理解し、データから変化を読み解く人になる(対談)
講師:ワークマン 専務取締役 土屋哲雄氏
オイシックス・ラ・大地 専門役員COCO(Chief Omni-Channel Officer)、顧客時間 共同CEO取締役 奥谷孝司氏
■第2回 2021年7月13日(火)20:00~21:00
テーマ:挑戦する組織をつくるリーダーになる(対談)
講師:ヤッホーブルーイング 代表取締役社長 井手直行氏
ALE 代表取締役社長 岡島礼奈氏
■第3回 2021年7月20日(火)20:00~21:00
テーマ:新事業を創造し世の中を変える人になる(対談)
講師:ビザスク 代表取締役CEO 端羽英子氏
atama plus 代表取締役CEO/Founder 稲田大輔氏
会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(ライブ配信)
主催:日経ビジネス
受講料:日経ビジネス電子版の有料会員のみ無料となります(いずれも事前登録制、先着順)。視聴希望でまだ有料会員でない方は、会員登録をした上で、参加をお申し込みください(月額2500円、初月無料)。7月1日開催予定の吉野彰・旭化成名誉フェローによる特別講演のみ、日経電子版の「NIKKEI LIVE」で同時配信されます(視聴のみ。講師への質問は日経ビジネスで申し込みをした方に限られます)。
■こんな方におすすめ
+ビジネスパーソンとして一層の成長を目指している方
+起業家や若手経営者の考え方や経験を知りたい方
+社外でも通用するビジネスの「土台」を身につけたい方
+部下を持つことになり「人間力」を高めたい方
+将来のキャリアについて考える就活中の学生の方
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