アスキーでは出せる書籍のジャンルが限られていることもあり、転職活動もしてみました。ただし2004年前後は就職氷河期で、出版社の募集は全然ありません。そこで編集部に所属しながら企画して作ったのが『英語耳』です。『単語耳』シリーズと合わせ累計発行部数は95万部のベストセラーとなりました。
普段の仕事もこなしながらどのように着想し、仕事を進めたのでしょうか。
加藤氏:僕自身が英語の勉強をしていたのがきっかけです。リスニングが苦手だったのですが、ネットで見つけたやり方で勉強したらTOEICで855点取れたんです。これはいいなと思い、ウェブサイトの書き手の方に連絡を取って社内で企画書を出しました。通常業務でない「余計なこと」をしているわけなので、めちゃくちゃヒットさせないといけないな、と。だから通常の企画書に加えてビジュアルに訴える資料など丁寧に作りましたね。とにかく忙しかったです。本当に全く寝る間もなく、会社だけでなく自宅でも仕事をしていました。

05年に出版社のダイヤモンド社へ転じました。
加藤氏:様々なジャンルの本を出したいと思い転職しました。『投資信託にだまされるな!』という本を作ったのは、個人的な動機です。僕自身が株式投資にのめり込んでいたのですが、ライブドア・ショックが起きてえらい目に遭いました。普通に働きながら株式投資するのは無理だと考え、今で言う「インデックス投資」をやってみたかったのですが、その頃は最適な本がありませんでした。
ベストセラーはアンケート調査では出てきません。欲求と不満は創作のきっかけになります。想像するしかないのですが、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏はインターネットをどこでも自由に使いたかったのでしょうね。興味を持っていろいろなものを見て、自分の仕事を通じて「欲しい未来」を作る。そうすれば調べるのも真剣になりますよね。
社内で詳しい人を訪ね歩き回る
「欲しい未来」にどのようにすれば近づけるのでしょうか。加藤さんは編集者時代、どんな工夫をしていましたか。
加藤氏:とにかく人に会うことですね。 気が合う人とか助けてくれる人を、会社組織の中で幅広く見つけようと心がけていました。それこそ出版社では社内を歩き回っていろんな部署に出入りしていました。一番詳しい人に聞くのが早いですよね。あるテーマについて教えてもらえると、書籍などの形で実現させるプロセスで不思議なことにさらにその人に助けてもらえる。これは絶対にやった方がいいです。
07年以降でしょうか。自分の中で2つの問題意識がでてきました。1つ目は「100万部売るにはどうすればいいか」ということ。もう1つはメディア業界のデジタル対応です。インターネットの普及とともに、出版社やクリエーターはコンテンツをデジタルで流通させ、収益化し、永続的にビジネスとして成立させることを求められます。一方で、その「解」がなかなか見つからない。この問題意識が、後の起業にもつながります。
どのように解を探っていったのでしょうか。
加藤氏:100万部を目指すことについては、昔のミリオンセラーのリストを徹底的に調べました。ビジネスマンを対象にした書籍だと上限はせいぜい20万部です。ミリオンセラーを生み出すには全員をターゲットにする必要があります。家族、お金、健康、恋愛、青春などの5つがテーマとなり、複数が混在していれば「なお良し」ということになります。
改めてつぶさに調べ、納得しました。そうして出版に至ったのが、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』です。著者の岩崎夏海さんがホームページに書かれていたあらすじを読み、書籍化を打診しました。
新しい挑戦で重視するのは「クオリティー」
重視したのはクオリティーです。当時、ライトノベルみたいな表紙はまだ一般的ではありませんでした。新しいことをやるときは、滑ったらだめです。デザインに拒否反応が出ないかなど、かなり綿密にリサーチしました。背景はアニメ「攻殻機動隊」の美術の人に依頼しました。忙しいと一度断られたのですが食い下がり、表紙のために2カ月発売を遅らせたほどです(笑)。もしドラは映像化もしましたし、とことんまでやりましたね。
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