オプションf
国際連系線により、電力を直接輸入する
再生可能エネルギーについては、仮に自国での生産ポテンシャルが限られる場合でも、連系線を引いて隣国から電力を輸入できるのであれば、再生可能エネルギー問題は解消する。日本の場合も、海を越えて、再生可能エネルギーの適地を持つ近隣の国々と連系線を接続することは、技術的には可能であり、コスト面でも有力なオプションになり得る。最大の論点は、「どの隣国から輸入するのか、輸入先の国が外交手段として電力輸出を制限することはないか」であり、安全保障上のリスクとの慎重な比較考量が必要となる。近年地政学リスクの高まりとともに、本件は、議論の俎上(そじょう)に載せにくくなっている。
以上のオプションの実現に向けてはそれぞれ大きなチャレンジがあるが、カーボンニュートラル時代に適合したエネルギーの確保は、実現不可能ではないと言える。また、もう一つのボトルネックである、炭素集約的な主力産業の変革、構造転換もハードルは高く、個別企業、業界による並大抵ではない努力が必要であるが、脱炭素エネルギーをしっかりと確保し、適切な政策的支援などを確保すれば、乗り越えられなくはないだろう。
総括すると、日本のカーボンニュートラル実現は、かなりの努力、覚悟が必要な険しい道を進むことになるものの、実現は可能といえる。(おわり)
経営者を悩ます大問題「カーボンニュートラル」への対応をまとめたボストン コンサルティング グループの指南書が本書だ。「脱カーボン」のシナリオと実践項目を示し、「カーボンニュートラル対策のスタンダード」ともいえる解説書となっている。
カーボンニュートラル対応で世界のスピードに遅れれば致命的な事態も想定されるが、先走り過ぎると無傷では済まない。欧米中の政府がどう動くか、先進企業はどこまで進み、ライバル社はどの程度本気なのか。この先のシナリオは不透明であるからこそ、カーボンニュートラルに関しては「シナリオ・プランニング」のアプローチが欠かせない。本書を通してボストン コンサルティング グループが示している指針には納得感がある。
こうした「シナリオ分析」は本書にとってイントロにすぎない。多くのページを「日本企業が採るべき実践項目」に費やしている。それは、3ステップ10項目にも及び、「カーボンニュートラル対策のスタンダード」といってもいいくらい充実している。日本企業や海外企業の取り組み内容も豊富に記載しており、「先進企業はどこまで進み、ライバル社はどの程度本気なのか」を見極めることもできよう。
カーボンニュートラルにおいては「スコープ3」という考え方があり、サプライチェーン全体が対象になる。もし取引先がカーボンニュートラルを掲げれば無関係ではいられない。大企業だけでなく、中堅・中小企業も対応が求められる。その対応次第では、取引停止の可能性すらある。「カーボンニュートラル」対応に不安を感じる経営者にとって、指針も実践項目も示した本書は救いになるはずだ。
外部サイト 『BCGカーボンニュートラル実践経営』紹介ページ
[日経クロステック 2021年11月26日掲載]情報は掲載時点のものです。

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