コストとサービスの質とのバランスが課題

 オンライン事業者が新たな物流網を構築する上で、重要になってくるのはやはりコストであろう。倉庫などの設備や人員を抱えて物流を担うとなると相当なコストがかかり、オンラインサービスならではの低コストや高い効率性を生かせなくなる。

 そうした背景から、これら新しいサービスの物流網構築の様子を見ると、コストをいかに抑えるかに重点が置かれている様子がうかがえる。ダークストアに関しては、配送効率が良く高収益を見込みやすい都市部を主体に展開することでビジネスが成立する体制を整えている。メルロジも効率化しにくい配送は手掛けず集荷の物流に特化し、さらに実際の作業は連携したパートナー企業に任せ、倉庫やトラックなどの設備や配送人員を直接抱えないことでコストを抑えようとしていることが分かる。

 だが取り扱う規模が大きくなってサービスの充実を望む声が増えてくれば、コスト効率を超えた取り組みも必要になってくるだろう。そのことを示しているのがeコマースの分野である。例えば、米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)や楽天グループなどの大手企業は膨大な投資をして、自社で直接大規模な物流設備を保有している。

 それに加えて楽天グループは、物流事業拡大のため日本郵政と提携。その子会社の日本郵便と合弁で物流事業を手掛ける「JP楽天ロジスティクス」を設立した。もともと楽天グループは単独での物流網構築を推し進めていたが、地方での物流網構築は収益性の面で難しさがあると判断、既に全国に物流網を持つ日本郵政と組むに至ったとしている。

楽天グループはコスト面で自社構築が難しいと判断した地方での物流網開拓のため、日本郵政と提携。日本郵便と合弁で「JP楽天ロジスティクス」を設立するに至っている
楽天グループはコスト面で自社構築が難しいと判断した地方での物流網開拓のため、日本郵政と提携。日本郵便と合弁で「JP楽天ロジスティクス」を設立するに至っている
(出所:楽天グループ)
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 もちろん将来を見据えれば、ドローンや自動運転車などの活用で、より低コストで効率の高い物流サービスを実現できる可能性もある。だが効率より安心・安全を強く求める日本人の気質とそれに合わせた法整備というハードルを考慮すれば、そうした時代が訪れるのは相当先のことになるだろう。それだけに当面はやはり、既存の枠組みを使いながらもコストを抑えつつ、消費者の満足度を高める物流網をいかに構築できるかが、生活系サービスの評価を分ける大きなポイントになるといえそうだ。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手掛けた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手掛ける。

[日経クロステック 2021年11月8日掲載]情報は掲載時点のものです。

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