米国の前提条件充足度

 米国は、前提条件③「ルール形成力」、前提条件⑤「再エネ生産ポテンシャル」、前提条件⑦「脱炭素ビジネス進行度」といった重要条件は満たしているものの、前提条件①「国民の支持」と前提条件⑥「化石燃料依存度」にアキレス腱(けん)を抱えている(図表3)。

図表3 米国のカーボンニュートラル前提条件充足度
図表3 米国のカーボンニュートラル前提条件充足度
〇:条件をほぼ充足、△:一部を充足、×:充足していない。(出所:ボストン コンサルティング グループ)
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 先の大統領選で浮き彫りになったように、米国では政治的な分断が進んでいる。特に、気候変動は、銃規制・人工妊娠中絶・社会保障などと並んで民主党・共和党の支持者の間で明確に見解が分かれるトピックである(前提条件①)。選挙のたびに気候変動へのスタンスが変わる不安定な状況は、連邦レベルでも州レベルでも当面続くだろう。また、巨大な国力を背景に単独行動に走る可能性があることは、京都議定書やパリ協定の参加・離脱の際の議論を見ても明らかである(前提条件②)。

 経済的には、GAFA(巨大IT企業、Google、Amazon.com、Meta(旧Facebook)、Appleの4社)をはじめとするデジタル分野の企業が高い成長率を誇り、経済をけん引している(前提条件④)。このことが、脱炭素に関連したデジタルサービス勃興の可能性につながる(前提条件⑧)と同時に、グリーンリカバリーの一本槍(やり)にすべてを賭けなくてもよいという余裕を生んでいる。

 米国は、石炭・原油・天然ガスなどの化石燃料をほぼ自給している(前提条件⑥)。このため、再エネ発電への移行が成長に結びつかないだけでなく、多くの企業経営と雇用に影響を与えてしまう。この産業構造が基底となり政治的な分断が生まれているため、問題は根深く、短期的には解決の糸口がない。

 米テスラに代表されるEV(電気自動車)や、シリコンバレーの環境を生かした「クリーンテック」スタートアップが多い点は、米国の強みである(前提条件⑦)。レアアースが産出され、中国以外の供給源になり得る点も、カーボンニュートラル推進の追い風となる(前提条件⑧)。だが、欧州に比べると、前提条件①と⑥のアキレス腱でこの強みが阻害され、十分に発揮されていない状況にある。(次回に続く)

BCGカーボンニュートラル実践経営
BCGカーボンニュートラル実践経営
BCGカーボンニュートラル実践経営
著者●ボストン コンサルティング グループ/定価●2200円(10%税込み)/発行●日経BP/発行日●2021年11月22日/判型●四六判296ページ/ISBN978-4-296-11093-3

 経営者を悩ます大問題「カーボンニュートラル」への対応をまとめたボストン コンサルティング グループの指南書が本書だ。「脱カーボン」のシナリオと実践項目を示し、「カーボンニュートラル対策のスタンダード」ともいえる解説書となっている。

 カーボンニュートラル対応で世界のスピードに遅れれば致命的な事態も想定されるが、先走り過ぎると無傷では済まない。欧米中の政府がどう動くか、先進企業はどこまで進み、ライバル社はどの程度本気なのか。この先のシナリオは不透明であるからこそ、カーボンニュートラルに関しては「シナリオ・プランニング」のアプローチが欠かせない。本書を通してボストン コンサルティング グループが示している指針には納得感がある。

 こうした「シナリオ分析」は本書にとってイントロにすぎない。多くのページを「日本企業が採るべき実践項目」に費やしている。それは、3ステップ10項目にも及び、「カーボンニュートラル対策のスタンダード」といってもいいくらい充実している。日本企業や海外企業の取り組み内容も豊富に記載しており、「先進企業はどこまで進み、ライバル社はどの程度本気なのか」を見極めることもできよう。

 カーボンニュートラルにおいては「スコープ3」という考え方があり、サプライチェーン全体が対象になる。もし取引先がカーボンニュートラルを掲げれば無関係ではいられない。大企業だけでなく、中堅・中小企業も対応が求められる。その対応次第では、取引停止の可能性すらある。「カーボンニュートラル」対応に不安を感じる経営者にとって、指針も実践項目も示した本書は救いになるはずだ。

外部サイト 『BCGカーボンニュートラル実践経営』紹介ページ

[日経クロステック 2021年11月22日掲載]情報は掲載時点のものです。

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