『BCGカーボンニュートラル実践経営』
『BCGカーボンニュートラル実践経営』
(日経BP)

 二酸化炭素(CO2)が企業を揺さぶっている。カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ、炭素中立)に関しては2030年や2050年といった報道がなされるが、「将来に解決すべき問題」ではなく、「今取り組まないといけない問題」である。では、企業は何をどのように考えて取り組めばいいのか、ボストン コンサルティング グループ(BCG、東京・中央)の著者陣が書籍『BCGカーボンニュートラル実践経営』にまとめた。この本で整理した9つの「カーボンニュートラル前提条件」に基づき、欧州連合(EU)と米国の現状を分析する。(技術メディアユニットクロスメディア編集部)

 世界はどの程度のスピードでカーボンニュートラル(炭素中立)に向かうのだろうか。推進速度を見極めるのに役立つのが「カーボンニュートラル9つの前提条件」だ。この前提条件の充足度が高いと積極姿勢をとり推進速度は速くなることが予想され、充足度が低いと積極的な対応はとらないだろうと予想できる。今回は欧州連合(EU)と米国である。

EUの前提条件充足度

 欧州は、前提条件のほぼすべてを満たす、数少ない地域である(図表2)。

図表2 EUのカーボンニュートラル前提条件充足度
図表2 EUのカーボンニュートラル前提条件充足度
〇:条件をほぼ充足、△:一部を充足、×:充足していない。(出所:ボストン コンサルティング グループ)
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 欧州は大半の国が地続きで、複数の国を貫いて流れる国際河川も多いことから、国境を越えた環境汚染などに対する感度が歴史的に高い(前提条件①)。各国における「緑の党」への支持は総じて堅調で、連立政権に参画するなど、政策に対する影響力も強い。

 経済成長は強力なドライバーを欠いており、低金利が続く。このため、コロナ禍においても経済対策をCO2削減に結びつける「グリーンリカバリー」をいち早く打ち出すなど、環境と成長の両立をコンセプトとして先導するリーダーである(前提条件④)。それを裏付けるように、自動車や発電設備といったプロダクトの技術水準も高く(前提条件⑦)、さらに、EU加盟27カ国という数のプレゼンスも生かし、市場での競争条件を定めるルール形成力が非常に高い(前提条件③)。

 再生可能エネルギーについては、内陸・海洋ともに発電に有利な条件がそろう(前提条件⑤)。特に、北海の地理条件を生かした洋上風力では、直流電力や海水を電気分解した水素を各国に送る計画など、非常に大きな再エネ発電ポテンシャルが見込まれている。こうした再エネ化を推進することによって化石燃料の輸入を抑えることが可能な構造(前提条件⑥)も、環境と成長の両立をさらに強固にしている。

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