目指すは映像の質の追及、体験の場を提供できるか

 何より気になるのが、なぜ今このタイミングでソニーがスマートフォンを活用したVRデバイスを投入するに至ったのかということ。スマートフォンを活用したVRプラットフォームは、米Facebook Technologies(フェイスブックテクノロジーズ)の「Oculus Quest 2」など専用デバイスの台頭で、ここ最近撤退が相次いでいるというのは以前にも触れた通りだ。

 スマートフォン向けVRとしては、カジュアルにVR動画を視聴する簡易型のデバイスが主流という現状にあって、なぜソニーは本格的なVR体験を楽しめるXperia Viewを提供するに至ったのだろうか。その理由についてソニーの関係者は、これまでのスマートフォンを活用したVRは「画質体験が期待以上になっていないところがある」と説明する。

 従来のスマートフォン向けVRは質よりも手軽さや価格が重視される傾向にあったが、コロナ禍でリモートでのコミュニケーションが増えるなど映像の利活用は広がってきており、5Gが本格的に普及すればVRの利用も一層増えるとみられる。そうした今後を考慮すれば、VRにもリアルな映像体験を求める声が大幅に増えると考え、Xperia Viewの提供に至ったのだという。

 ただそれでも気になるのは価格とコンテンツのバランスだ。Xperia Viewは市場価格で3万円前後を想定しているのに加え、Xperia 1 II/1 III自体がハイエンドモデルで高額なことから、既に所有している人でなければ利用する上で10万円は下らないコストがかかってしまう。

 それでいて利用できるのは映像コンテンツのみなので、内容だけを聞くと利用できるサービスのバリエーションや拡張性がかなり乏しく、割高な印象を受けてしまうのが正直なところだ。ソニーとしてはあくまで高精細な映像を利用し、従来よりはるかに高レベルでの没入感を提供することを重視しているというが、それをユーザーが体感して価値を感じてくれなければ購買にはつながらないだろう。

 ソニーのXperiaシリーズはここ最近、高価格ながら高い付加価値を提供し、ターゲットを絞り込んで確実な購買へとつなげるという、数よりも利益を重視する戦略を取っている。Xperia Viewも同様に、VR映像の質にこだわる人にターゲットを絞っていると考えられる。それだけにXpeira Viewが成功を収めるには、高画質という付加価値を求める人達に、実際にその質を体験して理解してもらえる場を設けることが重要だといえそうだ。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手掛けた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手掛ける。

[日経クロステック 2021年11月1日掲載]情報は掲載時点のものです。

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