「これはもしかすると、正規品と同じ金型を使ってつくったのかもしれない。(正規品の製造工程にいた人間が)退職する時に流出させた可能性もある」
イヤホンメーカーのオーツェイド(群馬・高崎)代表取締役社長の渡部嘉之氏は、偽物を見た途端、外観の再現度の高さにうなった。
有線式イヤホンを開発するオーツェイドは、イヤホンには珍しい圧電セラミックスを生かした音づくりに特徴がある。自ら製造を手掛け、音にこだわりのある同社なら、ニセAirPods Proの品質や音質を丸裸にしてくれるのではないか。そう考えて分析を依頼すると、快く引き受けてもらえた。
渡部氏としては偽物と本物のスピーカー特性が気になるという。この測定のためには、偽物と本物のスピーカーに直接、導線をつなげて有線イヤホンにしなければならない。そこでまず、イヤホンのケースを分解した。イヤーピースを外してイヤホンにヒートガンの熱風を当て、接着剤を溶融していく。その後、切れ込みに沿って薄いピックを入れて、こじ開けた。偽物は接着剤を使わずに単にはめ込んであるだけなのか、すぐに開けられたが、本物はピックを入れる場所が見つからず、熟練の技術者でもてこずった。
「うわ。これはひどい。百円ショップのイヤホン並だ」
ケースを開けた瞬間、渡部氏がそうつぶやいた。偽物は外観こそ似せていたが、見えない部分がとても粗雑につくられていたのだ。これではまるで電子工作の授業で学生がつくる程度の代物である。
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