権利者の利益を奪うのみならず、粗悪な品質によってブランドイメージを低下させる「模倣品」。多くの場合中国で製造され、オンラインショップや違法な流通業者を通じて世界中にばらまかれている。米Apple(アップル)の人気ワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」も例外ではない。AirPods Proの模倣品をだまされて購入してしまったユーザーから無償で譲り受けた日経クロステックは、音響性能や部品などを本物と比較した。判明したのは、デザインやユーザーインターフェース(UI)を巧妙に似せている悪質さ、そして正規品のスピーカーの周波数特性までも模倣している悪い意味での技術力の高さであった。

「土屋君、ちょっと面白いモノがあるんだけど分析してみない?」

 オフィスで仕事をしていると、ニヤニヤ顔の日経エレクトロニクス編集長が近づいてきた。

「これなんだけどさ」

 見せられたのは米Apple(アップル)の大ヒットワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」の箱。どう見ても箱の外観はAirPods Proだが、偽物だという。

「知人がさ、個人売買サイトでAirPods Proを購入したら偽物が届いたって言うんだ。日経エレクトロニクスで分解してみないってくれたんだけど、土屋君どう?」

 上司から振られた仕事に対しての返事は「イエス」か「はい」しかない。もちろん、記者としても興味が湧いたので調べてみることにした。

 まず、箱の外観を観察してみた。偽物を提供してくれた人によると、Appleのロゴがかすれていることなどを理由に偽物と判断したそうだが、AirPods Proのユーザーではない記者にはどこが違うのかさっぱり分からない。そこでまずは本物を購入して、偽物と比較してみた。

 届いた本物と偽物の箱を机の上に並べて比べたところ、本物と同じ白色の貼り箱(ボール紙などで箱の芯をつくり、その上に素材を貼付して成型加工したコストの高い化粧箱)を使っているのが分かった。天面の製品写真も、Appleのロゴも、商品名も、デザインの細部に至るまで両者は酷似している。

偽物(左)と本物(右)のケース外観(1)
偽物(左)と本物(右)のケース外観(1)
(撮影:スタジオキャスパー)
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偽物(左)と本物(右)のケース外観(2)
偽物(左)と本物(右)のケース外観(2)
象徴的なロゴマークもまねしているが、偽物の方は印刷にカスレがある。(撮影:加藤康)
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