いまの自動車産業の姿に重なるかつての電機産業
こうした「開発」と「製造」の分離に関して、既存の完成車メーカーは極めて懐疑的だ。というのも、「人の命を乗せて走る工業製品」である自動車は極めて高い安全性が要求され、それを担保するために完成車メーカーと部品メーカーのすり合わせによって高い信頼性を確保してきたからだ。開発と製造が一体化しているからこそ、高い品質が保証され、また効率的な開発・製造ができると信じられてきた。
しかし、新規参入企業に対する既存企業のこうした反応には既視感がある。日経エレクトロニクスの元編集長で、早稲田大学の客員教授などを歴任した西村吉雄氏の著書『電子立国は、なぜ凋落したか』(日経BP)に描かれた日本の電機産業は、いまの自動車産業の姿に重なって見える。
同書に「日本の半導体産業、分業を嫌い続けた果てに衰退」という章がある。半導体産業では、1980年代後半から製造工場を持たず開発に特化した会社と、製造に特化した会社による分業が広まっていった。この半導体の製造専門の会社を「ファウンドリー」と呼ぶ。現在の代表的な半導体の開発会社としては、スマートフォン用半導体大手の米クアルコム(Qualcomm)や自動運転車向けの高性能半導体で有名な米エヌビディア(NVIDIA)などがあり、ファウンドリーの代表的な企業としては台湾の台湾積体電路製造(TSMC)がある。
コロナ禍でのテレワークの普及に伴いパソコンの販売台数が急増し、そこに自動車販売の回復が加わり、さらに世界の大手半導体メーカーで工場トラブルが相次ぐなどの要因が重なって、世界の半導体需給は20年の後半から急速に逼迫した。このことで、世界の先端半導体の製造がTSMCや韓国サムスン電子(Samsung Electronics)など一部の企業に集中していることが、サプライチェーンの課題としてクローズアップされた。つまり半導体業界ではTSMCのような製造専門の企業がサプライチェーンの非常に重要な地位を占めているわけだ。
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト/編集者

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[日経クロステック 2021年8月24日掲載]情報は掲載時点のものです。
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