セキュリティーリスクがもたらす社会的影響は小さくない

 サイドローディングが比較的よく利用されているコンピューターのプラットフォームとしてはパソコンが挙げられるが、スマートフォンのサイドローディングを考える上で考慮すべきなのは、やはりパソコンと比べ利用者や利用シーンが大きく違っていることだ。

 パソコンは比較的コンピューターに知識を持つ人が主にビジネスやクリエーティブなどの用途で使うことが多い。企業が利用する際には、やはり知識を持つシステム管理者により管理されていることが多い。もちろんサイドローディングのせいでマルウエアなどによる多くの問題が起こってはいるものの、影響の範囲は特定の企業などにとどまることが多く、社会的に受ける影響は比較的小さい。

 だがスマートフォンは現在では老若男女、しかもコンピューターに対する知識を持たない人も多く利用するデバイスとなっており、個人での利用が主となるため管理するのも利用者自身だ。少なくとも日本においては現在のところ、サイドローディングがあまり一般的ではないこともあってマルウエアによる被害は少ないが、それでもメールやSMSなどを利用したフィッシング詐欺などが深刻化しており、サイドローディングが一般的なものとなればセキュリティーリスクが与える社会的影響はかなり大きくなると予想される。

 とりわけ最近ではシニアのスマートフォン所有率が急上昇するなど、スマートフォンに対する知識に乏しいユーザーが増えている状況だ。そうしたユーザーのリテラシーが追いつく前にマルウエアのインストールが容易な環境が整ってしまうのは懸念されるところだ。

NTTドコモのモバイル社会研究所が2022年4月11日公表したシニアのスマートフォン所有率に関する調査より。ここ数年のうちにシニアのスマートフォン利用は急速に高まっており、60代では既に9割を超えている状況だ
NTTドコモのモバイル社会研究所が2022年4月11日公表したシニアのスマートフォン所有率に関する調査より。ここ数年のうちにシニアのスマートフォン利用は急速に高まっており、60代では既に9割を超えている状況だ
(出所:NTTドコモ)
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 アプリの手数料問題などをはじめとして、アプリストアの公正競争に向けた施策が求められているのは確かだ。だが、スマートフォンにおけるセキュリティーリスクの影響範囲の広さを考えるならば、セキュリティーの確保は優先されるべきだろう。ところが先の報告書を見る限りその点がやや軽視されている印象を受けた。それだけに今後サイドローディングの議論を進めていく上では、スマートフォン利用者の立場に立って、セキュリティーと公正競争を両立できる仕組みを構築できるかという視点が求められるのではないだろうか。

 無論、先に触れた内容はあくまでデジタル市場競争会議の中間報告を基にしたものであり、最終報告ではない。具現化に向けた議論が本格化するのはむしろこれからだ。最終的にどのような結論が下され、それが社会にどのような影響を与えることになるのか、議論の推移を見守っていく必要があるだろう。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手掛けた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手掛ける。

[日経クロステック 2022年8月29日掲載]情報は掲載時点のものです。

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