インバウンドとコストの安さが地方の事業者に魅力

 ただ公共交通がインフラであることを考えると、既に普及しており広域で利用できる交通系ICカードのほうが、使い分けの必要がない分メリットは大きい。にもかかわらずオープンループを導入する動きが、とりわけ地方から広がっているのにはどのような理由があるのだろうか。

 理由の1つはインバウンド需要の取り込みだ。現在のコロナ禍ではインバウンド需要が大きく落ち込んでいる。これまで日本政府は観光に力を入れていたこともあり、コロナ禍以前は外国人観光客が大幅に増えインバウンド需要が大きな盛り上がりを見せていたし、コロナ禍後を見据えてインバウンド需要の取り込みに再び力を入れようとする動きも出てきている。

 そして先にも触れた通り、オープンループは既に多くの国で利用が進んでいることから、導入しておけば外国人観光客が切符や交通系ICカードを購入する必要なく公共交通を利用できるメリットが生まれてくる。とりわけインバウンドで空港からの移動を担う公共交通事業者にとっては、オープンループの導入が訪日外国人客の利便性向上、ひいては競合との差異化にもつながる。それだけに、関西国際空港からの路線を持つ南海電気鉄道のように積極的に取り組む事業者も出てきているのだ。

南海電気鉄道はオープンループの導入に向け実証実験を進めており、インバウンド需要の高まりによる訪日外国人の利便性向上がその契機となっていた。写真は2022年8月2日の「stera transitシンポジウム2022 summer」より(筆者撮影)
南海電気鉄道はオープンループの導入に向け実証実験を進めており、インバウンド需要の高まりによる訪日外国人の利便性向上がその契機となっていた。写真は2022年8月2日の「stera transitシンポジウム2022 summer」より(筆者撮影)
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 そしてもう1つは導入コストの安さだ。かねて交通系ICカードは事業者側にとってコスト負担が大きいとされており、Suicaの普及に力を注ぐJR東日本でさえ、とりわけ東北地方におけるSuicaの導入には長らく及び腰であり、北東北3県ではSuicaの導入が2023年の予定であるなど現在も駅での利用がほぼできない状況が続いている。

 だがオープンループは交通系ICカードより導入負担が小さいとされており、それが規模が小さい地方の公共交通事業者から人気を集める要因にもなっている。実際インバウンド用途ではなく、日常利用の公共交通機関でオープンループを本格導入する地方の事業者も出てきている。例えば、複数の地方公共交通事業者を傘下に収めるみちのりホールディングスは2023年12月より、茨城交通の路線バス全車両にVisaのタッチ決済を導入することを決定している。

みちのりホールディングスは2023年12月より、傘下の茨城交通の路線バス全車両にVisaのタッチ決済を導入、日常利用の公共交通へのオープンループを本格導入する動きを見せている。写真は2022年8月2日の「stera transitシンポジウム2022 summer」より(筆者撮影)
みちのりホールディングスは2023年12月より、傘下の茨城交通の路線バス全車両にVisaのタッチ決済を導入、日常利用の公共交通へのオープンループを本格導入する動きを見せている。写真は2022年8月2日の「stera transitシンポジウム2022 summer」より(筆者撮影)
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