東京で多様なAR作品を実現も、5Gの関与は少なく

 東京ビエンナーレ2020/2021は、東京の街を舞台とした国際芸術祭であり、様々なクリエーターが地域住民と一体となってアートを作り上げていく点に特徴がある。本来は2020年に実施される予定だったのだが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で1年延期され、2021年7月10日から開催されることとなった。

 そしてこのイベントは街を題材としていることから、今回ソフトバンクと共同開発された作品は、現実空間にデジタルデバイス、そしてAR技術を取り入れることにより、現実を拡張した新しい感覚を得る取り組みにチャレンジしているとのことだ。その内容を見ると現代アートが主のようだが、かなりバリエーションに富んだ内容となっていることが分かる。

 具体的な展示内容は、東京駅に人気漫画「進撃の巨人」の巨人の世界を重ねた「進撃の巨人ARアート」や、オフィスビルの谷間にブッダが落ちてくる「TOKYO BUDDHA」、神田川にかつて存在した山を実空間に再現する「Small Mountain in Tokyo」など。いずれも東京都内の指定の場所に行き、ソフトバンクが提供するスマートフォンアプリ「AR SQUARE」を使って楽しめる。

椿昇氏の作品「TOKYO BUDDHA」は、ビルの谷間にブッダが次々と落下し、最後には溶けて金塊になるという表現を、AR技術と「PLATEAU」のデータを使って実現している。写真は2021年6月29日の「東京ビエンナーレ2020/2021」に出展するARアートの共同開発に関する記者説明会より(筆者撮影)
椿昇氏の作品「TOKYO BUDDHA」は、ビルの谷間にブッダが次々と落下し、最後には溶けて金塊になるという表現を、AR技術と「PLATEAU」のデータを使って実現している。写真は2021年6月29日の「東京ビエンナーレ2020/2021」に出展するARアートの共同開発に関する記者説明会より(筆者撮影)
[画像のクリックで拡大表示]

 これらアート作品の実現には「PLATEAU(プラトー)」のデータを活用している。PLATEAUは国土交通省が進めている3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト。それをARに用いることで、オブジェクトが手前の建物に隠れるなど、より立体的な表現を実現しているという。

 ただ、実は今回の取り組みはスマートフォンとAR技術を主体に活用したもので、直接5Gを活用しているわけではない。ソフトバンク側の狙いも、5G時代に向けた新しいコンテンツサービスを提供する「5G LAB」のコンテンツを拡充し、利用者層を拡大するのが狙いのようで、5Gの活用にまで大きく踏み出しているわけではないようだ。

次ページ 通信の進化は表現の枠を広げる