自分たちの仕事をなくしてしまえ

 そんな訳なので、日本企業のDXは米国企業などのそれと似ても似つかぬものとなる。このままでは、過去に「米国企業が既に取り組んでいるから」という理由で日本でも流行した、ERP導入に伴う業務改革やBPRと同じ末路をたどるだろう。部分的な業務のデジタル化をもって「DXを成功裏に完遂した」などと言い出す企業が数多く現れるかもしれない。もちろん、それは変革でも何でもなく、痛みを伴わないで済むデジタルカイゼンにすぎない。

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 こうは書いてきたものの、DXに失敗しようと、単なるデジタルカイゼンに終わろうと、企業がそれで存続できるのなら、別にとやかく言う必要はないのかもしれない。ERP導入に伴う業務改革もBPRもろくでもない結果に終わったが、倒産の憂き目に遭う企業はほぼなかったのだから、DXに失敗したところで今回も何とかなる可能性もある。だったら、「Bさんたちはリストラ」といった残酷な変革には取り組まず、愛にあふれた会社のままでいたほうがよいのかもしれない。

 ただねぇ。この極言暴論で何度も述べている通り、今はインターネットが爆発的に普及した1995年を起点とするデジタル革命が「ピーク」を迎えている。以前なら変革に失敗してもへらへらしていられたかもしれないが、今回ばかりはDXに本気で取り組まないと本当にやばいぞ。何せかつての産業革命に匹敵する大変革期だからな。「Bさんたちはリストラ」という非情の決断を下してでもビジネスを変えていかなければ、後日に会社全体が阿鼻叫喚(あびきょうかん)という事態になりかねないぞ。

 日本企業はよくこの手の失敗をやらかす。倒産したり大規模なリストラを強いられたりした企業がもっと早い段階で不振事業を整理しておけば、そこまで追い込まれずに済んだのに、というケースが結構ある。企業の体力があるうちなら小規模なリストラで済み、会社を去る人たちに割り増し退職金や再就職支援を提供できたのに、その決断ができずに先送りにする。その結果、業績悪化の泥沼にはまり、皆が阿鼻叫喚の結末を迎える。そんな悲話がごろごろある。

 さて、ここまで愛にあふれた日本企業のDXについて悲観的に書いてきたが、読者の中には「今では大企業でも中途採用が当たり前になっているのだから、そこまで悲観的になる必要はないのでは」と思う人がいるかもしれない。それはそうなのだが、いかんせん転職者の絶対数が少なすぎる。愛にあふれた職場を変えるまでには至っていない。変化があるとしたら、社長やCIO、CDOら経営幹部も「転職者」が占める企業ぐらいだろう。

 やはりDXと人材の流動化はセットでなければならないと思う。そうでなければ変革は成功しない。ということで、最後に私が米国取材で聞いた話を書いておく。もう30年も前の話だ。メインフレームの全廃を進めていた建設会社のIT部門は、そのプロジェクトを「自分たちの仕事をなくしてしまうプロジェクト」と位置づけていた。「仕事がなくなると、皆さん困るでしょ」。私がこう聞くと、居並ぶIT部員たちから大爆笑の洗礼を受けた。

 するとCIOが「私を含め大半のメンバーはプロジェクト成功の実績を元手に、より良い仕事を求めて転職するつもりだ」との答え。私は、なぜ米国でこんなにもイノベーションが起こるのかを初めて理解できた気がして、すっかり米国出羽守(米国では、のかみ)になってしまったのを覚えている。この話は、ごく初期の極言暴論で記事にまとめた。現在のDXでも、成功させようと思えば当事者にそんなマインドが必要だと思うぞ。

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『アカン! DX』

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著 者:木村 岳史
価 格:1980円(税込)
発 行:日経BP

[日経クロステック 2021年5月31日掲載]情報は掲載時点のものです。

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