DXのために新社長がまずやるべきこと

 こうした現状に対して、「これは問題だ。何とかしなければ」と深刻に受け止めている日本企業の経営者はほとんどいない。先ほどそのように記した。ただ、少しは問題意識を持っているようで、何らかの手段で「現場のリアル」を把握しようとする経営者もいる。ただ、60代、70代の経営者は、そのためにシステムを活用しようという発想にはならない。

 少し前の話だが、優良企業との誉れの高い大手製造業の社長に「経営判断に必要な情報を提供するようなシステムは必要ないのか」と聞いたことがある。そうしたら、「システムのデータを見れば会社を経営できるなんて考えるのは愚かだ。各部門の長らから直接話を聞いて、話しぶりや顔色などもしっかり確認しないと本当のことは分からない」と諭されてしまった。つまり、現場のリアルの把握に必要なのは、デジタルではなくアナログの情報なのだ。

 現場のリアルを把握するために、とてつもなく愚かなイベントを実施する経営者もいる。人呼んで「大名行列」。社長が視察と称して、秘書や他の役員を引き連れてオフィスや工場を練り歩くことを指す。大名行列のルートに当たる現場は当日、念入りに清掃するなど余計な仕事までして、一行をお迎えする。社長は社員に「どうかね」と声をかけ、「はい、頑張っております」と社員は答える。で、社長は「現場の士気は高いようだ」と満足して帰る。もう目まいがする。

 話が脱線気味になってしまうが、今の新型コロナウイルス禍で大企業の多くは、全面的にテレワークを実施している。そうすると、間違いなく大名行列はできないだろう。それに経営会議もWeb会議方式で実施しているだろうから、各部門長の話しぶりはともかく顔色を「しっかり」確認するのは難しい。つまり新型コロナ禍で現場のリアルを把握する貴重な手段が失われたわけだ。誠にもってお気の毒なことである。

 さて、ITの重要性を理解する新社長はどうか。基幹系システムなどから得られる情報(インテリジェンス/エビデンス)を基にした経営の必要性を理解しているだろうか。理解していたとしても、それを実践できるだろう。極めて難しいよね。何せ老朽化したシステムは使い物にならない。ERP(統合基幹業務システム)などに刷新しようとしても、会長となった前社長はITオンチだし、事業部門長は自身の「シマ」の情報をガラス張りにするようなシステムは好まないはずだ。

 だけど、現場のリアルをアナログだけでなくデジタルの情報として把握し分析する仕組みがないと、経営者は自らの主導でDXを推進することなど不可能だ。デジタルの時代に対応するために全社的な変革をやろうというのに、インテリジェンスやエビデンスとなる情報が経営者の手元になければ話にならない。そして、会長や事業部門の長である他の役員とそうした情報を共有して、徹底的に議論して説得していかないと、何らかの痛みを伴うDXへの合意を取り付けることはできないだろう。

 そうなれば、ITの重要性、経営主導のDXの必要性を理解する新社長であっても、DXを現場に丸投げするしか手がなくなる。丸投げされた現場では当然、AI(人工知能)などを活用したPoC(概念実証)をやり散らして終わるか、愚にもつかない「業務改革」でお茶を濁して終わる。そんな訳なので、新社長はインテリジェンスやエビデンスに基づく経営の重要性を自覚して、基幹系システムの刷新など、その仕組みづくりに注力してほしい。頼んだぞ。それこそが「我が社のDX」への第一歩だ。

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[日経クロステック 2021年5月24日掲載]情報は掲載時点のものです。

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