インテリジェンスがない日本企業の経営者

 新社長も含め日本企業、特に大企業のビジネスパーソンは、現場から何層もの段階を経て上がってくる情報を基に意思決定するというやり方で、ずっと仕事をしてきた。いわゆるボトムアップ型経営というやつだ。一方、米国企業などはトップダウン型経営といわれている。CEO(最高経営責任者)が意思決定して、部下や現場に問答無用で実行を命じる。そんなイメージだ。だが、さすがのCEOも経営判断に必要な情報がなければ意思決定はできない。で、その情報はどこから来るのか。

 もちろん現場からのアナログの情報もあるだろうが、基幹系などのシステムから得られる情報が大きな意味を持つ。ちなみに意思決定で必要となる決定的な情報を「インテリジェンス」と呼ぶ。そう、日本でははやらなかったビジネスインテリジェンス(BI)のインテリジェンスだ。基幹系システムなどの膨大なデータを分析した結果などを、インテリジェンスとして経営判断に活用するわけだ。

 トップダウンというと独裁的なイメージだが、必ずしもそうではない。当然、インテリジェンスを基に役員同士で徹底的に議論する。で、意見が出尽くした段階に、CEOが最終的に意思決定するわけだ。当然、株主や投資家になぜそのような経営判断を下したのかを説明しなければならない場合があるが、説明する際のエビデンス(根拠)となるのも意思決定に用いた情報(インテリジェンス)だ。だから米国企業の経営スタイルは「エビデンスに基づいた経営」ともいう。

 で、日本企業の経営者の話に戻る。米国企業の経営者が現場の情報を基幹系システムなどからほぼリアルタイムに把握できるのに対して、日本企業、特に大企業になればなるほど、そんな「当たり前」のことができない。何せ基幹系システムは老朽化し、経営者がシステムを通じて直接把握できる情報は限られている。最近は少しましになったとは言え、個々の工場のパフォーマンスがいったいどの程度なのかですら、経営者には分からないといったトホホなケースも依然として多い。

 その結果、現場から何層もの段階を経て上がってくる情報を基に意思決定する羽目になる。「羽目になる」と書いたが、別に「これは問題だ。何とかしなければ」と深刻に受け止めている経営者はほとんどいない。昔からそうやってきたのだ。それに経営者も現場のビジネスパーソンも中間管理職も「我が社の強みは現場力」と信じているから、現場からボトムアップに情報を上げるのは理にかなっているように感じる。

 ただし現場から上がる情報とは、Excelなどでつくられた、予算と実績の推移を示す予実表や、なぜ実績が予算を下回っているかを言い訳する文書だけだったりする。しかも階層ごとに「この結果に対して、社長はどうお考えになるか」などを忖度(そんたく)する会議が横行するため、経営者まで情報が上がってくるスピードは遅くなる。当然、現場や事業部門に都合の悪い情報は、「まだ社長にお知らせする段階ではない」などと闇に葬られるケースも多くなる。

 結局のところ、基幹系システムなどから提供される情報も、現場から何層もの段階を経て上がってくる情報もろくでもない。米国企業はトップダウン型の経営スタイルなのに経営者が現場の正確な情報を即座に把握できるのに対して、ボトムアップ型のはずの日本企業の場合、経営者が現場の情報をつかむことさえ難しい。だから、ITの重要性を理解する新社長であっても、システムなどから得られるインテリジェンス、つまりエビデンスに基づいて経営することなど不可能なのである。

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