「若い頃にITに直接触れた最初の世代」が社長に到達

 だが、本当に「めでたしめでたし」なのか。これが今回の極言暴論の主題だ。だがその前に、これまで述べてきた「経営者の60歳ぐらいでの線引き」が単に私の妄想でないことを明確にしておこう。実は、この話の元ネタは既に極言暴論で3年前に書いている。ある外資系ITベンダーで営業担当者から聞いた味わい深い話である。

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 その営業担当者は従業員1000人未満の企業に対するセールスを担っていたが、中堅企業のIT投資動向がかなり変わってきたというのだ。従来は提案してもなかなか導入してもらえなかったような高額のシステムをあっさり買ってもらえたりするようになった。なんでも提案内容が理にかなっていれば、年度途中でも導入予算が付くとのこと。予算の期中変更や新規予算の確保がいかに難しいかはご存じだろう。営業部門など収益に直結する部門ならまだしも、間接部門であるIT部門にとって予算増額を勝ち取るのは至難の業だからだ。

 では、どうして期中に突発的なIT予算を確保できる企業が増えたのか。しかも、それはレアな事例ではなく、多数の企業で同様にみられるようになってきたという。企業において、IT予算に関して柔軟に対応できる人は限られている。そう、中堅企業ではITの重要性を理解する経営者が急速に増えてきたのだ。で、必要なIT投資にいつでもどれだけでもお金を出せるようになったわけだ。

 ITを理解する経営者が増えたと初めて実感したのは2017年だという。長年、全国で営業してきた経験からの実感だから、現実のトレンドに即した認識だろう。中堅企業ではこのあたりから、ITに理解がある人が社長に就任するようになったわけだ。で、その営業担当者が言うには、「中堅企業では新社長の年齢が50代半ばのケースが多い。そして(2017年当時の)50代の人は若い頃にITに直接触れた最初の世代だ」。

 お分かりいただけたと思う。この話を聞いた当時はまだ、大企業には60代や70代、つまりITオンチの世代、生きた化石の世代の経営者が大半を占め、「若い頃にITに直接触れた最初の世代」はごくまれだった。そして今、いよいよ大企業でも「若い頃にITに直接触れた最初の世代」から新社長が続々と誕生するようになった。

 そんな訳なので、中堅企業と同様に大企業もこれから先、DXの推進など必要とあらば期中であっても社長が臨機応変に新たなIT予算を認めるなんて夢のような状況が生まれてくるかもしれない……。だが、本当に「めでたしめでたし」なのか。ここから、そのあたりのことを考えてみよう。

 当然、想定できることだが、めでたしめでたしとはいかない。新社長がいくらITに理解があったとしても、この人を社長に引き上げた前社長が依然として、会長として社内ににらみを利かせる場合が多い。社長交代の際にメディアの報道では、次の経営トップとして次期社長にスポットライトを当てるが、実際には現社長が会長に「昇格」するのが実態に近かったりする。で、この実力派の新会長がITオンチだと、新社長はDXなどで適切な意思決定をするのが難しくなる。

 しかも大企業は、事業が比較的コンパクトな中堅企業と異なり、幾つもの事業部門を抱えている。以前、この極言暴論で指摘した通り、日本の大企業は「事業部門連邦制」であり、「勝手にやっている現場の集合体」だ。ITオンチの実力派会長が居残り、「一国一城の主(あるじ)」を気取る他の役員に囲まれた状況では、DXの推進どころか、従来通りのIT投資ですら臨機応変に対応することは難しいだろう。

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 新社長ご本人も本当に大丈夫か、という問題もある。確かに「若い頃にITに直接触れた最初の世代」であったとしても、それはITオンチではないことを保証するだけだ。DXを推進するためには、ITに対して見識があるだけでは不十分で、DXの「X」ができる、つまり自社を変革に導ける手腕が不可欠だ。だがその前に、本当に経営者としてITを活用できるのだろうか。「ITを活用する」とは、基幹系システムなどから得られる情報に基づいて経営するということだぞ。

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