デジタル人材は誰でもなれる
そもそも「デジタル人材」という言葉が危うい。従来のIT人材と何が違うのか。一般的なイメージで言うと、デジタル人材とはAI(人工知能)技術者やデータサイエンティスト、あるいはデジタルサービスの立ち上げを担う技術者などを指す。つまり、基幹系システムなどを担う従来のIT人材とは異なり、最先端のデジタル技術(=IT)を操りDXを推進する人材というわけだ。
だが、デジタル人材とIT人材の区分はあっという間に消えた。デジタル人材という言葉がIT人材を包含するようになったのだ。考えてみれば当たり前である。そもそもデジタル技術とインフォメーション技術(つまりIT)との間に明確な区分があるわけではない。それにDXに取り組むには、基幹系などレガシーシステムの刷新も必須になるから、デジタル人材とIT人材を区分しているのは意味がないどころか、有害でさえあるのだ。
そんな訳で「デジタル人材=IT人材」である。ただ両者のイメージは今でも若干異なる。デジタル人材のほうが「最先端で華やか」だ。だから、デジタルやITにあまり詳しくない人は、「学び直してあなたもデジタル人材になろう」などと言われれば、「いくら何でも無理」とびびってしまうだろう。あるいは「私でもなれるのか」と夢を大きく広げるかもしれない。
もちろん、そのデジタル人材がAI技術者やデータサイエンティストを意味するのであれば「私でもなれる」と安易に思わないほうがよい。基礎知識や年齢にもよるが、リカレント教育をみっちり受けたとしてもさすがに無理と思っておくほうが無難だ。だが、デジタル人材の中に包含されたトラディショナルなIT人材ならば話は別だ。もちろん、あなたにもなれるし、還暦を迎えた私にもなれる。
何せ、トラディショナルなIT人材はピンキリの世界だ。OSやミドルウエアなど、デジタルサービスの基盤となるソフトウエアを開発する技術者もIT人材だし、多重下請け構造の末端のITベンダーから客先に出されコーディングにいそしむコーダーもIT人材だ。客先に常駐し、老朽化したCOBOLプログラムの保守に明け暮れているうちに、潰しが利かなくなるコボラーもIT人材である。そして彼ら/彼女らは全てデジタル人材に含まれる。
そんな訳なので、「学び直してあなたもデジタル人材になろう」などと言われても、「いくら何でも無理」とびびる必要はない。誰であっても、なろうと思えばすぐになれる。こう書くと「ITの仕事はそんな甘いものではない」と不快に思う読者がいるかもしれないが、知識や経験は全く要らないし、学歴も不問だ。いかがか。これは間違いないだろう。そんな甘い仕事ではないはずなのに「誰でもなれる」のである。
で、ここからが重要なのだが、経済的苦境にある人が「私もデジタル人材になれる」と夢を広げてしまうようなことは避けなければならない。多重下請け構造のIT業界の末端で、いわゆる「人売り業」を営む下請け専門のITベンダーがそれこそ「口を開けて待っている」からだ。こうした人売り業にとってIT人材改めデジタル人材には、ずぶの素人も含まれる。リカレント教育も必要ない。なぜなら経歴を詐称して「デジタル人材」に仕立て上げれば済むからである。
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