長引く新型コロナウイルス禍で、3度目の緊急事態宣言も期間が延長されることになった。飲食業や旅行業、小売業などでは軒並み企業や店舗が苦境に陥り、職を失う人や休業を余儀なくされている人は数多い。一方で製造業などはいち早く業績が回復し、むしろ人手不足という。雇用の二極化が容赦なく進んでいるわけだ。

 そんな訳なので、雇用に関する公的支援策は現状、雇用調整助成金などを活用した雇用維持が続いているが、そろそろ転職支援なんて話が出てきている。要は新型コロナ禍で大打撃を受けて先の見通せない業種から、人手不足に悩む業種に転職を促そうというものだ。これまでと異なる仕事に就くには新たな知識やスキルを身に付ける必要があるため、いわゆるリカレント教育(学び直し)をこれまで以上に支援しようという話もある。

 一見すると良い話のように思える。コロナ禍に苦しむ人たちに新たな仕事の選択肢を提供するのはとても重要なことだ。それに、先進国の中で労働生産性が最低ランクに位置する日本としては、生産性の低い労働集約型の産業から、より生産性の高い産業に人材を移していくのは長年の課題でもある。コロナ禍を逆手にとって、この課題の解決を図るのは極めて筋が良い。苦境の中にいる人を支援しつつ「国家百年の計」も実現できる。

 当然ながら、そのための鍵となるのが「デジタル」である。今や多くの企業や行政機関がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しようとしているが、デジタル人材が圧倒的に足らない。だからリカレント教育などを通じて、苦境にある人たちをデジタル人材として再教育して、DXの現場に送り込もう。そんな動きも出てきている。既に民間では、人材派遣会社などが事業を始めているし、政治家や中央省庁もそんな政策の必要性を語り始めている。

 だが、これには悪い予感しかしない。この「極言暴論」の読者なら「えっ!何で?」と思う人はいないはずだ。というか「今回の記事のオチは見えているぞ」と言われそうである。そう、悪い予感しかしないのは、多重下請け構造によって人月商売を営むIT業界が口を開けて待っているからだ。この人月商売のIT業界を何とかしない限り「デジタル人材」は多重下請け構造の「エコシステム」に潜む人売りベンダーに食いものにされるだけである。

 このあたりの事情は極言暴論の読者には常識であろうが、政策担当者も含めてどうも世間にはそのあたりの理解が行き届いていない。未経験者がプログラミングなどITを学ぶのは少々ハードルが高いが、そのハードルを越えさえすればデジタル人材になって良い待遇が得られ、企業のDX、日本のDXに貢献できると誤解している。その誤解は目まいがするほど深刻だ。順を追って説明しよう。

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