まだ広がりを欠くコンシューマー向けAR
もちろんエンリアルとしても、映像の視聴だけにとどまらずにARの活用を推し進め、ARデバイスの利用を拡大していきたいことは確かだろう。実際同社はKDDIだけでなく、国内外の様々な事業者とARコンテンツの開発などを進めているようだ。中でもARの技術導入に積極的だというのが、観光やエンターテインメント、教育、そしてリモートワークに関連する業種だという。
ただ現実的なビジネスを考えると、現時点で注力が求められるのは法人向けだと考えられる。幅広い用途への対応が求められるコンシューマー向けとは違って、法人向けのARは、手を離せない点検業務などでマニュアルを確認したり、遠隔地から技術指導を受けたりするなど、用途がある程度確立されてきており本格導入に向けた動きも加速している。
実際、法人をターゲットにした眼鏡型のARデバイスは着実に数が増えており、2022年4月13日には中国の聯想集団(レノボ・グループ)の日本法人であるレノボ・ジャパンがARスマートグラス「ThinkReality A3」を発表している。さらに企業がARを活用しやすくするソフトウエアなどとThinkReality A3をパッケージにした「ThinkReality A3 Industrial Edition」を提供するなど、法人向け販売に軸を置いている様子がうかがえる。
コンシューマー向けARデバイスはまだ数が少なく、先駆的存在となったエンリアルに市場での優位性があるのは確かだ。ただ「大画面で映像を楽しむ」以上の広がりがなければ、ARデバイスを購入する人たちの層も広がりにくいだろうし、そのキラーとなるコンテンツやサービスを開拓するのにもまだまだ時間が必要だと感じてしまうのが正直なところだ。
そうしたことを考えると、エンリアルがARデバイスのビジネスを広げる上で、当面はやはり法人向けの需要開拓に積極的に動く必要があるのではないかと筆者は考える。コンシューマー市場での裾野が広がるまでかなりの時間を要したVRゴーグルの事例に倣うならば、ARデバイスも当面は手堅い法人向け市場で売り上げを得ながら、コンシューマー向けのキラーサービスが登場するまで辛抱強く取り組みを続ける必要があるのではないだろうか。
[日経クロステック 2022年5月16日掲載]情報は掲載時点のものです。

日経クロステックは、IT、自動車、電子・機械、建築・土木など、さまざまな産業分野の技術者とビジネスリーダーのためのデジタルメディアです。最新の技術や法改正、新規参入者や新たなビジネスモデルなどによって引き起こされるビジネス変革の最前線をお伝えします。
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「日経クロステック」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
6/20ウェビナー開催、「『AIバブル』の落とし穴 ChatGPTリスクとどう向き合う」

近年、ChatGPTをはじめとする生成AI(人工知能)の進化と普及が急速に進み、私たちの生活やビジネスに革新をもたらしています。しかし、注意が必要なリスクも存在します。AIが誤った情報を生成する可能性や倫理的な問題、プライバシーの侵害などが懸念されます。
生成AIの利点をどのように理解し、想定されるリスクに対してどのように対処するか。日経ビジネスは6月20日(火)に「『AIバブル』の落とし穴 ChatGPTリスクとどう向き合う」と題したウェビナーを開催します。日経ビジネス電子版にて「『AI新時代』の落とし穴」を連載中の米シリコンバレーのスタートアップ企業、ロバストインテリジェンスの大柴行人氏を講師に迎えて講演していただきます。
通常の日経ビジネスLIVEは午後7時に開催していますが、今回は6月20日(火)の正午から「日経ビジネス LUNCH LIVE」として、米シリコンバレーからの生配信でお届けします。ウェビナーでは視聴者の皆様からの質問をお受けし、モデレーターも交えて議論を深めていきます。ぜひ、ご参加ください。
■テーマ:「AIバブル」の落とし穴 ChatGPTリスクとどう向き合う
■日程:6月20日(火)12:00~13:00(予定)
■講師:大柴 行人氏(ロバストインテリジェンス共同創業者)
■モデレーター:島津 翔(日経BPシリコンバレー支局 記者)
■会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(原則ライブ配信)
■主催:日経ビジネス、日経クロステック、日経クロストレンド
■受講料:日経ビジネス電子版の有料会員は無料となります(事前登録制、先着順)。視聴希望でまだ有料会員でない方は、会員登録をした上で、参加をお申し込みください(月額2500円、初月無料)
Powered by リゾーム?