技術で負けてもビジネスで勝つ唯一の手段とは

 技術で負けてビジネスでも負ける日本企業が果たしてDXに成功し、デジタル革命の時代を生き残っていけるのだろうか。うーん、心配だ。ソフトウエア技術力では、欧米企業はもちろんインド企業や中国企業などと比べても、もはや追いつけないほどの差をつけられている。そしてビジネスで負ける度合いもどんどんひどくなっている。何せデジタルビジネスは、果断な経営判断によって一気に投資して市場の総取りを狙うのが基本的なお作法だからだ。

 日本企業の経営者の多くが、経営者として無能であったり職務放棄をしていたりするとなると、これはもう絶望的と言わざるを得ない。市場の総取りを狙うといっても、現実には難しい。だが、外国企業はそれを目指して積極果敢な投資やマーケティングで戦っているのに、日本企業では経営者が「我が事」として手を打たず、現場の担当者が「初年度は赤字だが、翌年度に黒字化を目指す」といった、ちまちまとしたビジネスを続けていては、とても勝ち目はない。

 ちなみに日本企業の経営者の「無能度」はともかく「職務放棄度」が垣間見える調査がある。何も目新しい調査ではない。この極言暴論や、私のもう1つのコラムである「極言正論」で引用したことのある日経BP総合研究所の「DXサーベイ」だ。それによると、DXに関する経営者の姿勢で「重要性を理解しているものの、現場任せ」が4割近くに達しているのだ。これは2020年の調査だが、2019年の4割強と比べてほとんど変わっていない。

 このように経営者が職務放棄を決め込んでいるならばDX、つまりデジタル(=IT)を活用したビジネス構造の変革など不可能だ。DXの一環として取り組む新規事業の創造もこれまでと同様に、ちまちまとしたビジネスで終わってしまうだろう。いや、違うな。ちまちまとしたビジネスにもならないケースのほうが多いに違いない。何せシリコンバレーのお作法を一知半解にまねて、「失敗を恐れず新しいことにチャレンジせよ」などと能天気に言い出す経営者が増えているからだ。

 以前指摘したが、日本企業の経営者が言うところの「失敗を恐れず」とはほとんどの場合、「失敗してもいいや」である。要は、担当者も上司もCDO(最高デジタル責任者)も、そして経営者も、誰も責任を取らない。「失敗を恐れず」ではなく「失敗しても痛くもかゆくもない」のだ。だからデジタルサービスのPoC(概念実証)をやり散らかして終わり、ちっとも事業化できないのである。当然、失敗の原因を分析し、新たな仮説や施策を立てて再チャレンジすることもない。これでは「技術で負けてビジネスでは不戦敗」である。

 結局のところ、どんなにもっともらしい言葉を吐いても、経営者が新規事業などを現場に丸投げしているようでは職務放棄である。日常の業務を事業部門長や現場に丸投げしているだけでも経営者失格だが、新規事業の創出や事業変革を丸投げするようでは、もはや犯罪的と言ってよい。そして、自らの主導で新規事業の創出や事業変革に向けた体制をつくれないのなら、経営者として無能と言うしかない。

 全くもって、こうした経営者に率いられた日本企業の未来は暗い……。いや、そうでもないな。日本企業から市場を奪った外国企業は、技術では日本企業に負けていたが、ビジネスで勝つことができた。で、勝因は経営者の差、経営力の差である。だったら、デジタル革命のさなかに技術で負けている日本企業も、経営者をはじめとする経営陣の首をすげ替えればビジネスで勝つ可能性が出てくる。自身の進退や後継者に悩む経営者はぜひ、そこのところを熟考してもらいたい。最大の経営課題が一気に解決するぞ。

『アカン! DX』

DX(デジタルトランスフォーメーション)ブームは既に腐り始めている――。日経クロステックの人気コラム「極言暴論」の筆者が、日本企業や行政のDXの問題点をずばり指摘する。経営者から技術者までDXに取り組むすべての人の必読書。2021年5月20日発売!

著 者:木村 岳史
価 格:1980円(税込)
発 行:日経BP

[日経クロステック 2021年5月10日掲載]情報は掲載時点のものです。

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