「技術で負けてビジネスでも負ける」が新常態に

 結局のところ「技術で勝ってビジネスでも勝つ」には、経営者の理解と決断が要る。いくら画期的な新製品や新サービスであっても、担当者に「初年度は赤字だが、翌年度に黒字化を目指す」なんて事業計画書を書かせているようでは話にならない。経営者が新技術や、それを使った製品/サービスの可能性を見抜き、ビジネスモデルを磨かせて、経営リスクを取ってそれなりに投資しなければ、そんな経営判断ができる経営者がいる外国企業に勝てるわけがないのだ。

 もちろん、担当者がどんなに頭を使ったところで、「初年度は赤字だが、翌年度に黒字化」の事業計画をつくれないものもある。ビジネスモデルとして駄目なものが大半だろうが、中には「世界を変える」ような画期的な製品やサービスに育つ可能性のあるものが含まれるかもしれない。だが、現場の担当者、あるいはその上司が忖度し、企画は闇に葬られて終わる。そして経営者は「どうしてうちでつくれなかったんだ」と嘆き続けることになるわけだ。

 ごくたまに日本企業から画期的な製品/サービスが生まれるケースがあるが、その開発物語にはよく似たパターンがある。先ほどのKOMTRAXのパターンはむしろ例外で、大概は現場担当者の「ゲリラ戦」だ。新製品や新規事業の企画したものの上司や経営者に理解されなかった担当者がそれにもめげず、業務の合間にゲリラ的にプロジェクトを進め、数多くの苦労の末に経営者からゴーサインをもらい事業を成功に導く。そんなパターンだ。

 この手の話は、日本企業における新規事業の成功物語としてビジネス誌などによく登場する。こうした成功物語をもって、イノベーティブな企業と称賛される例も多い。確かに、その担当者はまさにイノベーターであり、結果的にとはいえ、そんな人材を生かせた企業の風土は称賛されてもよいかもしれない。だけど、経営者は駄目だよね。経営者が無能であるか職務放棄をしているために、担当者に無用の苦労を強いたわけだからな。担当者の頑張りがあったからこそ成功したのであり、経営的に言えば単なる偶然の産物だ。

 さて、この「技術で勝ってビジネスで負ける」という日本企業の大問題は、ますます深刻化している。そもそも「技術で勝って」という領域がどんどん少なくなっているのだ。今や多くの日本企業は「技術で負けてビジネスでも負ける」というとほほな状況に陥りつつある。それはビジネスのデジタル化と無縁ではない。情報技術つまりITが「技術の王様」になり、中でもソフトウエア技術がビジネスをイノベートするキーテクノロジーとなり、日本企業はその技術動向に全くついていけなくなったからだ。

 いわゆるユーザー企業の経営者は、今でこそブームにあおられて「我が社もDXを推進する」などとぶち上げているが、少し前までは「俺はITが分からない」と公言していた人たちが大勢いた。そんな経営者に率いられてきた企業にはIT、特にソフトウエア分野に欧米企業や新興国の企業に勝てるような技術的蓄積がない。今になってソフトウエア技術者の中途採用に慌てふためいているわけで、ユーザー企業であっても多数の技術者を抱える外国企業に比べるべくもない。

 人月商売にかまけて労働集約型産業に成り果ててしまったITベンダーに至っては、論評する価値もないほどだ。本来ならソフトウエア技術の開発で先頭を走るべきだが、欧米のITベンダーが開発したソフトウエア技術(や製品/サービス)を使って、人海戦術で“ソフトウエア開発”にいそしむ。GAFAと比べたらGAFAに失礼といったレベルだ。そんな訳なので、日本企業はデジタル革命のさなかに「技術で負けてビジネスでも負ける」状態にある。

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