数少ない例外、なぜKOMTRAXは勝ったのか
日本企業が技術で勝ってビジネスで負けるのは、経営者が無能であるか職務放棄しているから。この理屈は十分に理解いただけたかと思う。そうなのだ。経営者が新規事業という極めて重要な経営課題でさえも現場に丸投げしているから、かような事態となる。「我が社の強みは現場力」「日本企業の意思決定はボトムアップ」などと称して、経営者としての責任を果たしていないから、後から来た外国企業に市場を席巻されてしまうわけだ。
数少ないが、さすがに例外もある。例えばコマツのKOMTRAX(コムトラックス)。顧客に販売した建設機械の稼働データなどを自社サーバーに集めて分析するこの仕組みは、今でも日本企業の憧れの的といってよい存在。建機の稼働状況が分かるため、故障診断や運転指導など顧客が喜ぶサービスを提供できるようになり、世界各国・地域での販売戦略の立案や研究開発の役にも立つ。IoT(インターネット・オブ・シングズ)を活用したデジタルサービスの古典的成功事例と言える。
8年も前だが、当時会長だった坂根正弘氏にKOMTRAXの開発に関わる話などを聞いたことがある。その際、坂根氏は「日本企業は技術で勝ってビジネスで負けることが多いが」と断ったうえで、次のようなエピソードを聞かせてくれた。「当初KOMTRAXはオプション機能であり料金をもらっていたが、私が社長に就任したとき、それをやめさせた。標準装備にすれば、我々のサービスの効率化にもつながるからだ。経営的に厳しい時期でもあり、現場だけではこうした決断はできなかった」。
実は、話はこれで終わらない。コマツのKOMTRAXよりも以前に、同様のサービスを始めていた日本の建機メーカーがあったのだ。この企業の経営者は「うちが最初だったのだが」と無念のコメントを述べていた。だが、まさに後の祭り。この企業も盗難防止などの用途で有償サービスとして提供していたのだが、「標準装備にすれば自社サービスの効率化にもつながる」といった経営判断を下せなかった。
つまり、この建機メーカーは現場のちまちましたビジネスとしてサービスを提供し続けたために、後発のコマツに一気に抜き去られてしまったわけだ。このエピソードは日本企業同士の戦いの話だが、今となっては極めてレアな事例だ。これまで様々な分野で、日本企業は外国企業に対して、技術で勝ってビジネスで負け続けてきたのだ。
最近では、必要な技術は以前からあるものの、そもそも製品やサービスを生み出せずに不戦敗するケースも増えてきた。今や古典的ねたではあるが、代表例に「スマートフォンをつくれなかった日本企業」がある。米Apple(アップル)のiPhoneが登場したとき、ある大手ITベンダーの経営者はiPhoneの分解結果を聞いて「何だ!うちでつくれないものは一切ないじゃないか。どうしてうちでつくれなかったんだ」と嘆いたという。
そりゃ当たり前だ。そのITベンダーはメーカーであり、研究開発でも高い水準にあったから、iPhoneのようなハードウエアは当時でもつくれた。だが、ソフトウエアやビジネスモデルとなると話は別だ。たとえ技術開発では優れていても、新規事業ではちまちましたビジネスしか経験がない現場レベルでは、iPhoneのような斬新で大がかりなビジネスをつくれるわけはない。「どうしてつくれなかったんだ」の理由は、やはり歴代経営者が無能であったか職務放棄していた点にある。
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