高速大容量と低遅延を両立する各社の工夫
そして大容量通信と低遅延を両立するための工夫は、各社の取り組みから見て取ることができる。例えば京セラが2021年3月23日に本格販売を発表した法人向けの5Gデバイス「K5G-C-100A」は、5Gで通信できるルーターとしてだけでなく、エッジコンピューティングデバイスとしても活用できる。
実際K5G-C-100Aは、チップセットにハイエンドスマートフォンと同じ米Qualcomm(クアルコム)製の「Snapdragon 865」を採用。通信用途だけに使うデバイスなら、ここまで高性能のチップセットを搭載する必要はない。だが、5Gで映像など大容量通信のニーズが増えることを見越し、端末上でエッジ処理ができる仕組みを整えるに至ったようだ。
そのエッジ処理を活用した一例として京セラが挙げているのが、ドローン関連のシステムインテグレーターであるブルーイノベーションと開発を進めている、5Gを活用したドローンのソリューションである。ドローンにK5G-C-100Aを搭載し、5G伝送用デバイスとしてだけでなく、映像をAI解析するエッジデバイスとして活用する。これにより監視や点検などの業務用途、さらには低遅延による安全性が求められるドローンの離着陸制御などを実現しているという。
またローカル5Gではないが、NTTドコモはパブリック5Gの通信モジュールとエッジ処理が可能なチップセットを搭載した「エッジAI対応5Gデバイス」を開発している。これを使ってエッジ側でカメラの画像を処理し、クラウドに映像を伝送する前に人の顔を検知してモザイクをかけ、プライバシー情報を外部に送らないようにする取り組みなどが進められているという。
一方、コアネットワーク側を近づけることで低遅延を実現しようとしているのが中国の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)である。同社はローカル5G向けにネットワーク機器を提供しているというが、その際低遅延の実現のため、基地局に近い場所にコアネットワークのハードウエアを直接置いてもらうことを重視しているのだそうだ。
実は各社のローカル5Gサービス内容を見ると、コアネットワークをクラウドで提供することを重視しているケースが多い。それは無線ネットワークに不慣れな企業に対し、初期導入や運用にかかる手間、コストといったハードルを下げる狙いが大きい。ただ、別のネットワークを経由する分遅延の面では不利となる。そこで同社では、コアネットワークを直接設置し、ネットワーク上の距離を短くして遅延を減らすることに力を入れているのだという。
より高度な通信が可能な5GがIoTに対する企業のニーズを変えつつあることは確かだが、こうした各社の取り組みを見ると、そのニーズを満たす上ではネットワークやデバイスを提供する企業の工夫が重要だということも見えてくる。参入する企業が増えているだけに、今後法人向けの5Gソリューションは事業者間の争いが激しくなると考えられるが、企業のニーズに応えられるネットワーク技術をいかに提供するかが、競争を勝ち抜く上での重要なポイントになるといえそうだ。
フリーライター
[日経クロステック 2021年4月26日掲載]情報は掲載時点のものです。

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