この「極言暴論」では、ユーザー企業のIT活用がいかに愚かで、ITベンダーのご用聞きと人月商売がいかに理不尽かを暴き出す過程で、日本企業が大切にしている価値観、あるいは強みなるものを徹底的に否定してきた。例えば「お客さまに寄り添う」とか「我が社の強みは現場力」といった類いのものだ。

 「お客さまに寄り添う」とは人月商売のITベンダーの経営者や、その経営者に洗脳されている客先常駐の技術者らが大好きな言葉であり価値観だ。私が極言暴論で何度「気色悪いからやめろ」と書いても、あるいは面と向かってそう言い放っても、人月商売のITベンダーは根本的価値観として護持し続けている。いやはや、あきれるしかない。

 なぜ、この気色の悪い「お客さまに寄り添う」が駄目なのかを解説してから随分たつので、今回の極言暴論のテーマの前振りとして、少し復習しておこう。もちろん「お客さまに寄り添う」自体が絶対に駄目だと言っているのではないぞ。例えば接客業や医療機関なら「客(患者)に寄り添う」のは当然の価値観だろう。だが、人月商売とはいえITの仕事だぞ。なぜ客に寄り添わなくてはいけないのか。

 そりゃまあ客に寄り添っていれば、それなりの信頼を得られるかもしれない。そう言えば「お客さまに寄り添う」から派生するスローガンが「絶対に逃げない」である。ITベンダーの経営者らは「絶対に逃げないことでお客さまから信頼を得ている」などと言う。「おいおい、信頼されるのはそれしかないのかい」と突っ込みたくなるが、けしからんのはその価値観やスローガンによって、自社や下請けの技術者を死地に赴かせることだ。客の理不尽が招いたデスマーチであっても「絶対に逃げるな」と強要するのは犯罪的だぞ。

 それに客に寄り添うと言ったって、企業(客)という組織には寄り添えないだろう。寄り添えるのは人間に対してだけだ。必然的にITベンダーの技術者らは、生身の人間に寄り添うことになる。具体的には、目の前にいるIT部門の担当者たちだ。そんなことをしているから、目線が思いっきり低くなり担当者のご用を聞くばかりの存在に成り果てる。客(この場合は顧客企業だが)の経営課題を把握して、ソリューションを提案することなどは到底不可能になる。

 その客が「我が社の強みは現場力」などと称しているなら、もう最悪である。基幹系システムの刷新などの際も、経営者は「各現場が創意工夫してシステム刷新を成し遂げよ」などと言って、IT部門などに丸投げするだろう。そのIT部門の担当者に、目線の低いITベンダーの技術者らが寄り添ってご用を聞く。もう想像するだけでも恐ろしい。どうでもよい利用現場の要求が多数盛り込まれて要件が膨らみ、プロジェクトの大炎上は確実である。いやはや、くわばらくわばら、である。

続きを読む 2/4 昭和の価値観と強みを日本企業から一掃すべし

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