商用化には社会受容を高める取り組みが重要に

 NTTドコモでは体の動作を共有するだけでなく、感情や五感など人間の他の要素も共有できる研究も進めているとのこと。それによって多様性やハラスメントに関する教育など、やはり口頭での説明だけでは理解しづらい要素の理解を深める取り組みを進めたいとしている。

人間拡張基盤では身体の動きだけでなく、脳波をセンシングしてそれを動きに反映する仕組みの開発にも取り組むなど、人間の様々な部分をコントロールする仕組みの構築を目指しているようだ。写真は2022年1月17日、「docomo Open House'22」にて筆者撮影
人間拡張基盤では身体の動きだけでなく、脳波をセンシングしてそれを動きに反映する仕組みの開発にも取り組むなど、人間の様々な部分をコントロールする仕組みの構築を目指しているようだ。写真は2022年1月17日、「docomo Open House'22」にて筆者撮影
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 6Gは2030年ごろの商用サービス展開が見込まれているが、その時に現在のスマートフォンが主体の生活が続いているとは限らない。5Gでは更なる高度なデバイスの普及が見込まれているが、その先には人間拡張のような取り組みが、実生活に取り入れられることも十分考えられると筆者はみる。

 ただ一方で、その実用化に向けては倫理面の問題が立ちはだかることが大いに考えられるのも確かだ。人間を直接コントロールする仕組みを悪用すれば自らの意思に反した行動を取らされることも十分考えられるだけに、今回の取材においても記者から様々な懸念の声が聞かれたのは確かだ。

 ただ先にも触れた通り、人間拡張の研究自体は以前から取り組まれていたもので、6Gでそれがネットワークとつながることは十分想定されるものでもある。今後他の国でも同様の取り組みが進められる可能性も高いだけに、倫理面の懸念で社会実装が進まなければ、産業面での世界競争で取り残される可能性も高まってくるだろう。

 とりわけ日本では、新しい技術へのネガティブな評価が強く影響して社会受容が遅れ、その導入が進まず産業面で大きく後れを取るケースが非常に目立っている。それだけにNTTドコモが6Gに向け本気で人間拡張基盤の実用化を目指すのであれば、現段階から社会受容を高めるための、技術を超えた取り組みが強く求められるだろう。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手掛けた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手掛ける。

[日経クロステック 2022年1月31日掲載]情報は掲載時点のものです。

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