ネットワークを通じて人の動きをコントロール

 実際NTTドコモは、今回のイベントに合わせる形でFCNTと富士通、そしてセンシング技術を持つH2Lらの協力を得て「人間拡張基盤」を開発したことを明らかにしている。これは人間拡張の実現に向け目指している「身体のユビキタス化」「スキルの共有」「感情の伝達」「五感の共有」「テレパシー・テレキネシス」という5つの要素のうち、前の2つの要素を実現するための基盤となる。

 より具体的に言えば、体の動作を把握する機器(センシングデバイス)で取得したデータを、ネットワークを介して動作を再現する駆動機器(アクチュエーションデバイス)を通じ、人やロボットに伝えることで同じ動作を再現するというのが人間拡張基盤の役割となる。人間の動きをロボットに伝えて遠隔操作し、同じ動きを再現する取り組みは従来見られたものだが、それを別の人間に伝えてコントロールするするというのは、人間拡張ならではの取り組みといえる。

 ただセンシングデバイスを持つ人と、アクチュエーションデバイスを持つ人やロボットは体形が必ずしも一致しているわけではない。そこで人間拡張基盤では体形の違いなどを吸収して自然な動作を再現することを目指しているという。

NTTドコモらが開発した「人間拡張基盤」は、センシングデバイスで取得した情報をネットワークを通じて収集し、ロボットや別の人に適した形で反映してコントロールする仕組みとなる。写真は2022年1月17日、「docomo Open House'22」にて筆者撮影
NTTドコモらが開発した「人間拡張基盤」は、センシングデバイスで取得した情報をネットワークを通じて収集し、ロボットや別の人に適した形で反映してコントロールする仕組みとなる。写真は2022年1月17日、「docomo Open House'22」にて筆者撮影
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 会場では実際に人間拡張基盤を使ったデモなども披露され、センシングデバイスを持った人の手の動きを、ネットワークを通じてロボットに反映するだけでなく、電気による刺激を用いて別の人の手の動きをコントロールする様子なども披露された。

 現時点では研究開発段階ということもあって実際にコントロールできる動きには限界もあるが、本格的な人間拡張基盤の展開に向けては、人間のより多くの動きを、より正確にコントロールするための取り組みも進められることになるだろう。

人間拡張基盤のデモの1つ。右の人の手の動きをロボットに反映させ、コントロールしている。写真は2022年1月17日、「docomo Open House'22」にて筆者撮影
人間拡張基盤のデモの1つ。右の人の手の動きをロボットに反映させ、コントロールしている。写真は2022年1月17日、「docomo Open House'22」にて筆者撮影
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同じく人間拡張基盤のデモ。左の人の手の動きを右の人に伝え、腕に装着したアクチュエーションデバイスの電気刺激によって手を動かしている。写真は2022年1月17日、「docomo Open House'22」にて筆者撮影
同じく人間拡張基盤のデモ。左の人の手の動きを右の人に伝え、腕に装着したアクチュエーションデバイスの電気刺激によって手を動かしている。写真は2022年1月17日、「docomo Open House'22」にて筆者撮影
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 人間拡張基盤で「身体のユビキタス化」「スキルの共有」を実現することで、NTTドコモとしては人をコントロールすることよりも、業務や運動などを“体で教える”ことを重視して取り組んでいるようだ。ネットワークを通じた教育では音声や映像などが活用されることが増えているが、伝えられる情報にはどうしても限界があることから、体に直接動きを伝えることでより技術を理解しやすくする狙いがあるという。

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