時間を追うごとにじわりと増していく水位の高さ。住宅地の緯度や経度、高さ、様々な情報を掛け合わせて浸水の進み方を予測する。そんなシミュレーションに挑んでいるのが、東京大学発の数学スタートアップでAI(人工知能)開発のArithmer(アリスマー、東京・港)だ。

 東大発のスタートアップは300社以上あるが、アリスマーは数理科学研究科の出身者が初めて起業したケースになる。創業者で社長の大田佳宏氏は東大大学院で数学を教える特任教授でもあり、「常に美しいプログラムを追い求めている」と話す。

 「美しさ」とは、必要なデータを取り出し、シンプルな数式から答えを速く導くものだという。「数学は社会の役に立たないといわれてきた。小さな数式でいかに広い範囲をカバーするかが最大の目的だ」と大田氏は話す。

 アリスマーが進めている数学の社会実装の一つが、浸水シミュレーションだ。福島県沿岸部の広野町と2020年6月に連携協定を結び、災害時には防災情報に役立ててもらい被害を最小限に抑える狙いだ。

アリスマーはAIを使って災害時の浸水シミュレーションなどを実施する
アリスマーはAIを使って災害時の浸水シミュレーションなどを実施する
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 広野町は東日本大震災の際に津波、そして原発事故によって「緊急時避難準備区域」に指定され、町民は退去する必要があった。10年を経て町民のおよそ9割が戻り、災害に強い新しい街づくり「AIスマートシティプロジェクト」を打ち出している。その一翼を担うのがアリスマーだ。

 これまで災害予測などで利用されていたシミュレーションは画像処理などに時間がかかり、データが膨大なことから浸水予測に数週間から数カ月を要するケースもあった。

 アリスマーは数学を使って、利用するデータそのものをシンプルにする。まず広野町の測量会社が保有するドローンにより町全体の緯度、軽度、高さなどの点群のデータを測量。 そのデータを碁盤の目のようにして細かく区切る。木や建物などの構造物、地形などの連続的なデータをある一定のところで区切っていく数学的な手法を「離散化」という。

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