前回は、20年前に発表されたノーベル賞候補の材料を水素などのエネルギーインフラに活用しようと奮闘する京都大学発のスタートアップ企業を紹介した。そんな「温故知新」のイノベーションで社会課題を解決しようとしている企業はほかにもある。

 エレファンテック(東京・中央)は製造で使う水の量や廃棄物、エネルギーを10分の1以下に減らした電子回路のプリント基板を手掛けるスタートアップだ。すでに量産にも入っているが、技術の肝の1つがメッキ加工。インクジェットを使った回路印刷という最新技術と掛け合わせ、持続可能なものづくりの旗を振る。

 三井化学の名古屋工場(名古屋市)の一角。ここで、これまでの常識を覆したプリント回路基板の量産が始まった。パラダイムシフトを企てるのは、同社と資本提携するエレファンテックだ。

 「製造プロセスは引き算ではなく足し算」。同社の清水信哉社長は世界初の技術をこう説明する。一般的な基板は基材に銅箔を張り付け、感光材を使ったエッチング技術で不要な部分を落として回路を形成する。

 製造時には大量の水の利用に加え、銅の溶液や感光材料が廃棄される。生産地によっては深刻な環境問題を引き起こしており、電子産業の一大拠点である中国・深センでは基板の新工場建設が規制されているほどだ。

三井化学の工場敷地を間借りして量産を始めた
三井化学の工場敷地を間借りして量産を始めた

 だが、エレファンテックは家庭用プリンターでもおなじみのインクジェット技術で樹脂フィルムに銀ナノインクで回路を印刷する。不要な部分をそぎ落とす無駄がまったくない。

 通常、基板の製造には1平方メートル当たり約1.8立方メートルの水が必要だが、同社では13分の1。使用するエネルギーや廃棄物の量もすべて10分の1以下に抑えられる。この足し算の技法は20年ほど前も大手メーカーが試行錯誤していたが、実現には至らなかった。

 清水社長はマッキンゼー・アンド・カンパニーに新卒入社後、起業のアイデアを模索していた。転機となったのは留学先の米ボストン。マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ客員研究員でかつての恩師だった川原圭博教授と再会した。

 回路基板の研究テーマを知り、「ものにできれば世界の製造業を大きく変えられる」と起業した。すでにディスプレーメーカーなど数社が採用、足元では約100社と商談が進んでいる。

清水社長は留学先の米国で起業の種を探り当てた(写真:的野 弘路)
清水社長は留学先の米国で起業の種を探り当てた(写真:的野 弘路)
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