イラク、モスル近郊にあるニネベ遺跡のマシュキ門で、約2600年前からだれの目にも触れてこなかった石板のレリーフからそっと土を払う、イラクと米国の合同考古学チームのメンバー。(PHOTOGRAPH BY ZAID AL-OBEIDI, AFP/GETTY)
イラク、モスル近郊にあるニネベ遺跡のマシュキ門で、約2600年前からだれの目にも触れてこなかった石板のレリーフからそっと土を払う、イラクと米国の合同考古学チームのメンバー。(PHOTOGRAPH BY ZAID AL-OBEIDI, AFP/GETTY)

 過激派組織「イスラム国」(IS)が破壊した古代遺跡を調査していたイラクと米国の合同チームが、約2600年もの間だれの目にも触れてこなかった見事な芸術作品を発見した。

 見つかったのは、精巧な浮き彫りが施された7枚の石板。もとはイラク北部の古代都市ニネベの南西宮殿に使われていたもので、新アッシリア帝国の王センナケリブ(在位紀元前705〜681年)の時代に作られたと考えられている。「まったく予想外の発見でした」と、イラク、モスル大学考古学部の元学部長で、発掘チームの一員であるアリ・アル=ジャブーリ氏は言う。

「革命的」な作品

 英国の大英博物館に、今回のものとよく似たレリーフが展示されている。19世紀半ばにセンナケリブ王の宮殿から発掘されたもので、前701年にこの王がユダ王国の王ヒゼキヤに対して仕掛けた攻撃の様子が描写されている。

アッシリア軍の野営地が描かれた石板。床面より上のレリーフがほぼ削り取られているのが見てとれる。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL DANTI)
アッシリア軍の野営地が描かれた石板。床面より上のレリーフがほぼ削り取られているのが見てとれる。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL DANTI)
左の石板の右下部分を拡大すると、当時のイラン人のものとして知られる髪形とあごひげを持つ「異国人」の姿が見える。アッシリア人には通常、肩までの長さの巻き毛とあごひげが描かれる。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL DANTI)
左の石板の右下部分を拡大すると、当時のイラン人のものとして知られる髪形とあごひげを持つ「異国人」の姿が見える。アッシリア人には通常、肩までの長さの巻き毛とあごひげが描かれる。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL DANTI)
横倒しの向きで埋められていた石板に描かれたアッシリアの弓兵。円錐形を重ねた背景の模様は、彼らが丘陵地帯あるいは山間部にいることを表している。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL DANTI)
横倒しの向きで埋められていた石板に描かれたアッシリアの弓兵。円錐形を重ねた背景の模様は、彼らが丘陵地帯あるいは山間部にいることを表している。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL DANTI)

 センナケリブ王は、最盛期には現在のイラクからカフカス地方、さらにはエジプトにまで領土を広げていた新アッシリア帝国の最も有名な指導者のひとりだ。前701年の軍事遠征は、大英博物館ほか数々の博物館が所蔵する石板に記録されており、聖書の記述にも登場する。

 センナケリブの治世はまた、美術史においても重要な転機と考えられている。センナケリブが雇った芸術家たちは、伝統的な制約を捨て、まったく新しいアプローチを採用した。センナケリブが作らせたのは、自らの軍事作戦を描写する大規模な芸術作品だった。それは連続した物語として構成されており、余白は隅々まであますところなく埋め尽くされ、広大な帝国とその周辺の風景や人々が細部まで丁寧に刻み込まれている。

 新たに発見された石板に描かれているのは、アッシリアの兵士や軍の野営地、異国からの流刑者あるいは戦争捕虜であり、うち1枚にはセンナケリブの碑文が刻まれている。

ギャラリー:2600年手付かず、新アッシリア帝国のレリーフを発見 写真10点(写真クリックでギャラリーへ)
ギャラリー:2600年手付かず、新アッシリア帝国のレリーフを発見 写真10点(写真クリックでギャラリーへ)
ニネベのマシュキ門で作業をする発掘チーム。一見何も描かれていない石板だが、床面より低いところまで掘ると、細かい彫刻がびっしりと施された部分が現れてくる。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL DANTI)

 これら古代の芸術作品は、二度の危機を生き延びた。一つは紀元前612年のバビロニア人とメディア人によるニネベ略奪、もう一つは21世紀のISによる破壊だ。石板に残るレリーフは、まるでついさっき彫られたばかりのように見えると、考古学者らは驚きの声を上げている。

「大英博物館にあるものよりも保存状態は良好です」と、米ペンシルベニア大学の考古学教授で、今回のプロジェクトの責任者であるマイケル・ダンティ氏は言う。「当時は革命的だったセンナケリブの彫刻の高浮き彫りとその細部が、非常によく観察できます」

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