アイルランド沿岸のケイジ・フィールズは、世界最大級の石器時代の遺跡のひとつだ。かつて泥炭地に埋もれていたこの遺跡に新たにできた体験型観光施設では、6000年以上前に人々がこの地でどのように耕作を行い、どうやって食物を保存していたかを体験できる。(PHOTOGRAPH BY GARETH MCCORMACK, ALAMY STOCK PHOTOS)
アイルランド沿岸のケイジ・フィールズは、世界最大級の石器時代の遺跡のひとつだ。かつて泥炭地に埋もれていたこの遺跡に新たにできた体験型観光施設では、6000年以上前に人々がこの地でどのように耕作を行い、どうやって食物を保存していたかを体験できる。(PHOTOGRAPH BY GARETH MCCORMACK, ALAMY STOCK PHOTOS)
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 アイルランド西部のメイヨー県のバリーキャッスルとベルマレットの間には、ドラマチックな断崖と大西洋に挟まれた、広さ13平方キロメートルに及ぶ湿原が広がっている。木々がほとんどなく、丘も高くはないため、何もない土地のように見える。が、この孤立した海岸には「アイルランド最大の考古学的発見のひとつ」と称される遺跡がある。

 アイルランドには、はるか昔の社会を垣間見せてくれる泥炭地がいくつかある。そこから、聖杯や大量の金製品、中世の詩篇書といった宝物、2000年前の「ボグバター(乳脂肪から作ったバターの塊を保存のために泥炭地に埋めたもの。ボグとは泥炭地のこと)」や、「ボグボディー」(泥炭地で良好な状態で保存された人間の遺体。最古のものは紀元前2000年のもので、カシェルマンと呼ばれている)などが発見されてきた。(参考記事:「世界各地のミイラ、ちょっと意外な作成法も」

 しかし、アイルランド最大の新石器時代の遺跡が見つかったのは1930年代と比較的新しい。この発見をきっかけに、紀元前3800年ごろの、世界でも最も古い時代の石垣に囲まれた農地が見つかった。紀元前3800年といえば、エジプトのピラミッド(紀元前2550年)やストーンヘンジ(紀元前3500年)よりも前である。

 ケイジ・フィールズと呼ばれるこの場所は、ユネスコの世界遺産暫定リストに入っている。同じアイルランドのバレン高原ほど有名ではないかもしれないが、2022年6月にオープンした新しい体験型観光施設は、そんな現状を一変させるかもしれない。施設では、石垣の歴史や石垣が取り囲んでいた古代の農地、そこに住んでいた人々について学べるインタラクティブな展示が行われている。(参考記事:「ユネスコ無形文化遺産とは? 守りたい世界の文化すでに600件超」

沼炭に埋もれた宝物

 ケイジ・フィールズは、数千年にわたり、湿地の腐敗した植物の中に埋もれていた。これを発見したのは、アイルランドのベルデリッグ出身である教師パトリック・コールフィールド氏である。燃料にするための泥炭を切り出していた彼は、泥の中の深いところに大きな石が長く積まれているのを見つけた。彼は1934年にダブリンの国立博物館に手紙を書き、この発見を知らせた。しかし、当時の博物館には調査する余裕がなかった。

 それから30年近くたった1963年、パトリックの息子シェイマス・コールフィールド氏が率いる考古学チームがこの地を調査。住居の基礎やスクレーパー(掻器[そうき])、矢じりなどの新石器時代の道具、崩れた石垣などが見つかった。炭素年代測定の結果、遺跡は約6000年前のもので、組織化された農業コミュニティーがこの地を開発していたことが明らかになった。

 アイルランドのユニバーシティー・カレッジ・ダブリンでケルト考古学の名誉教授であるガブリエル・クーニー氏は、「初期の農場の姿を見せてくれるケイジ・フィールズは、世界的にも非常に重要です」と説明する。「この遺跡は、人々が環境と相互作用していたことを示す証拠です。農業とその起源を理解し、世界で農業が始まった背景を解明するうえで欠かすことのできない遺跡です」

 パトリックの孫であるデクラン・コールフィールド氏は、ベルデリッグ・バレー・エクスペリエンスという会社を設立して、一族の遺志を引き継いでいる。彼は、石垣が最初に発見された泥炭地で、2時間から2日間の個人ツアーを開催。ツアー参加者は、古代の石臼で穀物をひいて、地元の穀物がどのように製粉されていたかを体験したり、石と木を使って建物を立てる方法を学んだりできる。

「祖父は、古代のものに対する優れた洞察力を持っていました。彼の発見は、ケイジ・フィールズについて語るうえで重要な部分だと思います」とデクランは言う。

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